G14(3日に一度更新)

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119.『時を結ぶリボン』『振り積もる思い』『光の回廊』



 私は今、宇宙人に攫われていた。
 具体的に言うと、UFOの謎のビームで引き寄せられている。
 光の回廊にも見える謎のビームは、重力と私の意思を無視し体を宙へと浮かせていた。

 でも、私の心に焦りはない。
 なぜなら自分から攫われに行ったからだ。

 もちろん理由はある。
 宇宙人に会うためだ。

 私は子供のころから、異常なほど宇宙人に執着していた。
 ありとあらゆる文献を読み漁り、目撃情報があれば現地に飛んでいく。
 どんなに信憑性の無い情報でも、一縷の望みをかけて確かめる。
 私の青春は、宇宙人に捧げたのだ。

 けれど、宇宙人はどこにもいない。
 私はその度に落胆した……

 ――今の方法では、何時まで経っても宇宙人を見つけることは出来ない。
 そう悟った私は逆転の発想をした。
 宇宙人が見つからないなら、向こうから来てもらえばいい。
 つまり、誘拐してもらおうと考えたのだ。

 もちろん危険なことは分かっている。
 宇宙人にも色々いるとは思うのだが、誘拐をするような奴らが友好的なわけがない。
 もしかしたら、改造されるかもしれないし、死ぬより酷い目にあうかもしれない。
 だけど子供のころからの降り積もる思いが、私を突き動かした。
 宇宙人による誘拐事件を調べ上げ、誘拐しやすそうな人間を演じ――そして私は誘拐された。


 ここまで計画通り。
 あとは宇宙人と対峙し、あらかじめ用意していた改造スタンガンを突き付けてやるだけ。
 そうすれば、夢だった『宇宙人の解剖』を叶える事が出来る!

 そしてUFOを乗っ取れば、他の個体を騙して色々な人体実験――宇宙人体実験を行う事も出来る。
 なんというロマン。
 私は興奮のあまり、むせび泣きそうだった。

 私は興奮冷めやらぬ状態で、UFO内部に引き込まれる。
 私の目の前には、何も知らない宇宙人が一人。
 これからどんな運命が待っているかも知らず、ニヤニヤと笑っている。

 私は心の中で喝采をした。
 ここから見る限り、コイツは私が何もできないと思って油断している。
 今なら確実に仕留められる。

 私は腰にあるスタンガンに手を伸ばす。
 夢を叶えるまであと少し。
 絶対に逃さない。
 必殺の一撃をお見舞いすべく、宇宙人を注視した。
 だが――

「痛っ!?」
 突然腕をねじり上げられる。
 驚いて振り向けば、そこは二人目の宇宙人。
 目の前の宇宙人に気を取られ過ぎて、背後の伏兵にに気付けなかったのだ。
 私は自分の迂闊さを呪った。
 
(罠にかかったのは私か……)
 私は逃れようと身をよじるが、私を掴む腕は微動だにしない。
 計算外だと焦っている間にも、一人目の宇宙人は少しづつ距離を詰めてくる。
 スタンガンは手に取れず、脱出も叶わない。
 絶体絶命の瞬間、一人目の宇宙人が、私に向かって手を伸ばす。

(もはやここまでか……)
 私がすべてを諦めて目を閉じた、その時だった。

 パシャ。

 強い光と共に、妙に聞き覚えのある音が聞こえた。
 前を見ると、宇宙人の手にはスマホのような機械があった。
 何かを操作するたびに、謎の機械は光を放つ。

 パシャ、パシャ、パシャ。

 そして私を掴んだ宇宙人は、私の手をしっかりと握ったまま、機械が光るたびにポーズを変えていく。
 まさか、これは……

「記念撮影!?」
 私が呆気に取られている間にも撮影会は続く。
 そして何十回もの撮影が終わったあと、用は終わったとばかりに宇宙人は手を離す。
 私は咄嗟に距離を取るが、宇宙人たちは私には目をくれず盛り上がり始めた。

 宇宙人語は分からないが、きっと『うまく撮れた』とか『大物だ』とか、そんな他愛のない話をしているのだろう。
 私の事なんて、気に掛ける価値はない。
 そういう態度だった。

 だがこれはチャンスでもある。
 油断している宇宙人にこのままスタンガンを押し付ければ、解剖できる宇宙人が二人に増える。
 災い転じて福となす。
 昔の人は良い事を言った。

 私は気配を殺して宇宙人に近づく。
 当初の計画とは違ったが、とりあえず目的は達成できそうだ。

 さっきに気づいたのか、私の腕をねじった宇宙人がこちらを向いた。
 そして何かを叫ぶ。
 だが遅い。
 私は体をバネにして飛び掛かった。

 だが……


 バコン。
 突然、足元の床が無くなった。
 またしても、宇宙人の罠だったのだ。

 予想だにしなかった出来事に、私はなすすべもなくUFOの外に放りだされる。
 無力な私はそのまま地面に叩きつけられると思いきや、謎のビームによってゆっくりと地面に落ちていき、気づけば無傷で地上に立っている。

 驚いてUFOを見上げると、UFOの窓らしき所から宇宙人が顔をのぞかせていた。
 その顔には、明らかな安堵の表情があった。
 まるで、『怪我をさせなくてよかった』とも言いたげだ。

 なぜ私を無傷で地球に返すのだろう?
 意味が分からず呆然とする私。
 そんな私を尻目に、UFOは音もなく飛び去っていた。

 かと思うと、少し離れた場所で再び謎のビームを放ち、人のような物を吸い上げている。
 私はそのまま眺めていたが、すぐにまた光が放たれ、人のようなものを下ろす。
 そしてまた別の所に移動し、また謎のビームを放つ。

 その動きを見て私は確信した。
 宇宙人たちは、改造するために人間を誘拐したわけではない。
 誘拐そのものを楽しんでいるのだ。
 つまり……

「キャッチ&リリースだと……」
 アイツら、人間を釣って楽しんでやがる。
 なんて非道な奴らだ。
 人間側の都合などお構いなしに誘拐し、用が済んだら捨てる。
 最悪の愉快犯だ。
 次に会ったら、地獄の苦しみを味合わせながら解剖してやる!

 私が憤っていると、ヒラヒラと一枚の紙きれが舞い落ちて来た。
 興味を引かれて手に取っていると、それは私と宇宙人のツーショット写真だった。
 必死な形相で暴れる私、笑顔でポーズをとる宇宙人。
 私が複雑な面持ちで写真を眺めていると、写真の下に何かが掛かれている事に気づく。
 不慣れなのか所々間違えている日本語で、私宛のメッセージが書かれていた。

『広い宇宙で出会えた私たちの出会いの記録。
 この写真が、生まれた時も場所も違う私たちを結ぶ、時を結ぶリボンとなりますように』
 
 うるせえよバカ。

12/29/2025, 2:20:16 AM