『旅立ちの目的は』
「ボクは、ダメだった」
目の前にいる彼はそうポツリと呟く。何時もの堂々とした姿はどこにもなく、ただ、小さい頭がそこにあった。
「誰も傷つかない、理想の世界を創りたいだなんて大事言っておいて、あの男に操られていただけだなんて……。本当にバカだったよ」
ハハと乾いた笑いが短く部屋に響いた。彼の足元にいる子が心配そうに彼を見上げ、くぅんと小さく鳴く。
私は彼の名を呼んだ。彼の瞳が私に向けられる。
「私はそうは思いません」
彼の方へ歩み寄り、手を握った。彼の手は冷たかった。
「貴方様がこの世界を良くしようと、誰よりも努力していたことを私は知っています。貴方様がバカなど、絶対に有り得ません。全ては騙していたあいつが悪いのです」
「…元はと言え雇い主だった人をあいつ呼ばわり?」
「えぇ、私はあいつがずっと嫌いでしたから」
「ふふ、なにそれ」
彼が笑ってくれたことに安堵し、名前を呼び更に話を続ける。
「私と旅に出ましょう。世界は広いです。私たちが知らないことがまだまだ沢山ある。それを知ってから、世界を創るのも悪くないでしょう?」
彼は少し考えるように目を閉じた後、うんと頷いた。
「そうだね、キミと一緒の旅なら得られるものが沢山ありそうだ」
そう何時もの笑みを浮かべる彼を見て、私もふふと笑った。
あぁ、やっと私が好きな貴方が戻ってきてくれた。
【誰よりも】
2/16/2026, 5:18:55 PM