きらめく街並み
12月になってから2桁指折り数えるようになると、街は次第に赤と黄色の光を灯し出す。ベルの音が混じったオルゴールがBGMとして流れ出したのが聴こえる。大きくついたため息は自分のマフラーにのみ吸収されて2人1組で浮き足立って歩く人達には決して聞こえない。
クリスマスはただの日だと声を大にして言えるようになったのは、デートやら何やらで休めない方が多数派の社会人になってからのことだった。そもそもその年末のイベントを楽しみにしていたのは、フィンランドからやってくる髭のおじいさんを信じていたあの頃ぐらいまでのことだったなぁとぼんやりと思う。
経済面では現実的なプレゼントをくれる幻想的なおじいさんも、ある程度の値段のものをお互いに渡し合うような相手のどちらもいない自分は、一人寂しくネットで自分へのプレゼントを買う。ちょっと良い財布。自分の懐は寒いが、その懐自体も温めてくれそうなそのブツが届く時間帯までには家に帰ろうと決めて歩みを速める。
もう冷蔵庫には何も無いからスーパーに寄らなきゃ、帰ったらあのメール返さなきゃ、明日の資料はどうだっけ、足よりもよく働く頭を労わりつつ、寒さに身体を縮こまらせる。仕事に必要な構想を頭の中で組み立てている間に、そういえばあまり寝ていなかったぞと思い出したようにあくびが襲いかかってきた。潤んだ目に、イルミネーションがきらめく街並みが眩しい。この光を何年も過ぎた先に、いつか自分も誰かに欲しいものをあげて、もらって、幻想的なおじいさんに進化する時は来るのだろうか。来ないような気もするが、まぁそれはその時だから。今は消費電力の計算はせずに純粋にその景色を綺麗と笑い合える人が欲しい…なんて、今はもう姿を現さなくなった赤い制服の人を思い浮かべて、控えめなお願いをしつつ、真っ暗な家の扉を開けた。
12/5/2025, 10:16:01 AM