『時を結ぶリボン』
……時結びのリボンって知ってる?
それを持っていると、未来の自分に一度だけ会いに行くことが出来るらしいよ。
これは、最近の女子高生たちの間で流行っている噂だ。
女子供のやる飯事だ。科学的根拠はない。
なのに、どうしてだろうか。
『ねぇ、時臣。未来の自分に一度だけ会えるリボンを作ったら、女子高生の間で流行るかな?』
……俺はこんなにも、必死になって“お前”を探している。
都心から離れた場所にある、ピンクとフリフリに囲まれた店。
年を食ったおっさんが入るにはキツイ店に、俺は覚悟を決めて足を踏み入れた。
「やぁ、待ってたよ。時臣」
お姫様の部屋にあるみたいなピンクカーテンをくぐった先、そいつは居た。
意外に中には客の姿はなく、あいつの姿一人だった。
店内の明かりはOFFにされており暗く、どうにも打ち捨てられた廃城の一室のようで。
そんな部屋で、あいつは主君である姫を守れなかった魔法使いのような、くたびれた様相で俺を出迎えた。
「……なんで、こんなことをしたんだ」
「なにが? 時結びのリボンのこと? 良いことじゃない。夢がある。未来の自分はどうなってるんだろう、そう考えた子がちょっと未来を見てくる、責められるようなことかな?」
悪びれもしない態度に、俺は頭の欠陥が切れそうになって、衝動のまま、あいつの胸ぐらに掴みかかった。
「おまえっ!!! 本当に言っているのか!!
――死人が出たんだぞ!?」
そう。時結びのリボンは、過去の試作のときに死人を出した。
それも、時結びのリボンを使った被験者である、アイツの恋人が……自分の未来に絶望し自殺する、という形でだ。
未来を見ることには夢がある、だが同時に知ることにはリスクがあるのだ。
未来は分からない、だから今を……現実を生きていける。
あれは俺たちの心の中に、深い傷となり知らしめた事件だった。
「だから?」
「だからだと!? お前は、命がどうなってもいいのか!!」
「……どうでも良くないよ、どうなっても良いと思えなかったから、僕はここに居るんじゃないか!!!」
凄い剣幕だった。
思わず怒りが消えて、困惑が俺の中を支配する。
あいつの先ほどまでの死んだ魚のような瞳に光がともり、カラカラの砂漠からオアシスの水が溢れるように、声もなく涙を溢し始める。
「叶多?」
「時臣……このままじゃ、君は三ヶ月以内に死ぬ。僕はそんな未来を変えに来たんだ」
「……は?」
あいつの名前を呼ぶ俺の言葉を露知らず、あいつは言葉を続けた。
俺が……死ぬ? そんな衝撃的な言葉を前に頭が真っ白になる。
突飛な事を言い出すヤツではあった。だが、決して嘘や冗談を言ったり、人をおちょくるようなヤツではなかった。
いつだって人のために動き、人のことを自分の命をかけて大事に出来るヤツだった。
だから、こそ、俺はその言葉を、嘘だとは断言出来ない。
何も言えなくなった俺に対して、叶多が口を開く。
「だから、時臣……魔法少女になろう」
「……は?」
「魔法少女になれば、時臣は救われるんだ!!」
キラキラと輝いた目をするあいつを前に、俺は死んだ目で宇宙をみていた。
これは中年のおっさんが自分の命を守るために、フリフリの服を着ながら魔法少女(笑)として、街を駆け巡って人助けする話である。
……続かない。
終わり。
12/20/2025, 4:46:24 PM