薫お嬢様は紅茶がお気に入りらしい。最近は「ルフナティーが良いのよ」と言っている。
そんなこだわりを持っているのに、お嬢様は私に紅茶を淹れさせるのだ。それも頑なに。
私はプロではない。お嬢様が満足のいくような仕上がりには到底及んでいないだろう。それが毎日申し訳なくて仕方が無い。
「お嬢様、その……私でよろしいのですか」
「何が?」
「私が紅茶を淹れるのは、良いのですか」
「どういう意味、やりたくないって事かしら」
「いえ、私は元々家事や育児、その他雑用を想定して作られた型なので」
「それで?」
「その……不慣れです。お嬢様に満足していただけるか分かりません」
お嬢様は分かりやすくため息をつき、何かをつぶやいた。ああ、怒らせてしまっただろうか。こういう時のお嬢様は、御両親に似てとても怖い。
「貴方はね、確かに私の子守をするために買われたアンドロイドよ。でもね、もうそんなの必要ないの」
「家事をやらせようと思ったらそれに特化した型にさせればいいの。分かる?」
もはや私は劣化版で時代遅れな型番だ。もう私が必要とされるような時代ではないのだ。分かっていたはずなのに、お嬢様が淡々と指摘することでそれが事実になってしまう。
「だから……これは個人的な趣味よ」
「趣味?」
「……『紅茶がお気に入り』だと思ってるでしょ」
「違うんですか?」
「はあ……私のお気に入りは貴方よ。別にお菓子だってショッピングだって、何でもいいわ。貴方がそこにいるなら、それで良いわ」
お題 ―「お気に入り」
2/18/2026, 7:31:50 AM