氷見どり

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『イルミネーション』
(元のお題:きらめく街並み)


 ぼわぼわとした感触のそれに液体を染み込ませて、人目も憚らずに顔を拭う。向こう側の車窓に映った顔をぼんやりと眺める。肌は呼吸を取り戻していくのに、どこか息苦しい感情になるのは、周りの視線のせいだけではないだろう。
 1224という数字にどんな特別な意味があるのか、なんてとうに忘れてしまった。サンタクロースへの差し入れにチョコクッキーを焼いた次の日、カカオはトナカイにとって毒だと知り大泣きしたあの頃の私は間抜けで愚鈍で、きっと輝いていた。
 車窓に映る顔は一気に野暮ったい顔になった。10年以上経っているというのに、油を一層剥がしただけであの頃の醜い顔が眼前に現れて笑えてきた。
 それなのに、不細工な顔で幸せそうに笑うあの頃の私はどこにもいなかった。
 駅を出ると冷たい空気が全身の筋肉を震わせる。
 コンクリートでできたこの街が、わざとらしい赤と緑のリボンに覆われるのを皆当たり前のように受け入れていて、注目を集めているのは専ら広場にあるイルミネーションツリーだった。
 電飾がきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきら。私の気持ちなんてどうでもいいみたいだった。この光に汚い私を沈めてしまいたい、そんな衝動に駆られる。少しの間でいい。私の醜さを覆い隠してほしい。
 確か昔に調べたことがある。このくらいの規模なら30万円くらいだろうか。私が必死に1ヶ月働いてもぎりぎり足りないくらいのお金。
 これから、毎週徒歩15分のスーパーで買い物するようにして、お菓子も外食も断とう。使わなくなったキャビネットや高かった時計も売ってしまおうか。きっと来年の冬までには貯まるはずだ。貯まった30枚の紙切れは、宝物みたいに隠しておこう。いつになるかわからないけど、見つけるのは私だ。そしたら、

12/6/2025, 1:22:03 PM