瀬名柊真

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黒い線があたりを漂っている。そのうちの1本に、彼の伸ばした指先が触れた。
何もない場所。いきなり彼の視界はそれで埋め尽くされた。手足が自由に動く。
彼はいろんなところを自由に歩いてみた。だが、どこまで行っても同じ景色が続くだけ。荒れ果てた荒野ならまだしも、ただの空間なのが余計に嫌な感じを彷彿とさせる。
もしもこのままここから抜け出せなかったら?
一生このまま?
いや、そんなわけはない。どこかに出口があるはずだ。
そう思いつつ彼は歩き続けた。足が徐々に痛み始める。何時間歩いたやも分からない。
もう無理だ。
彼が座り込むと同時に、彼女の姿が見えた。彼と目が合うなり、驚愕の表情を浮かべ、彼に近づいてくる。
そうして、彼女の手が彼の手に触れた瞬間、何もない世界は消えた。
彼の身体がひどく汗ばんでいる。
夢潜り。
したくもないのになってしまう、あれ。
今度彼が見たのは誰の夢だったのだろうか。あの彼女は誰だったのだろうか。
あそこまで何もない世界を彼は初めて見た。
だから、夢に見るほど現実を虚無と捉えているのなら、彼が救ってやりたい。
そんなことはないのだと。
君が見た夢は、君を苦しめるものに過ぎないのだと。
信じられないなら、一度だけ試してご覧?と。
今まで何度そう思っても誰一人救えた試しはないのだが。

12/16/2025, 10:59:56 PM