かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
雪の静寂、キンと冷えた白一面に、頑丈に固められたかまくらと、それから焚き火があります。
焚き火の上にはこれまた頑丈な枝が、三脚のように組まれておって、下では鍋がぐつぐつ。
とても美味しそうなスープが湯気を吹いています。

鍋の更に下では、ホイルに包まれた肉やらキノコやら、美味しそうな食材がいっぱい。

「魚はそろそろ良いな」
焚き火の世話をしておった男性が、木の枝を使ってホイルのひとつを出しまして、ガサガサガサ。
つつみを開くと、でっぷり太った川魚が、
かぐわしいバターとスパイシーなハーブをまとって、絶妙に、蒸し焼かれておりました。

「よし」
男性は世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の局員で、ビジネスネームをツバメといいました。
「マンチさん。1匹、」
1匹、焼けましたよ。
一緒に焚き火に当たっておった、別部署の局員のマンチカンに、ツバメはよく焼けた魚をm

「さかな!さかな!さか
あっつい。」
「でしょうね」

よく焼けた魚を薪でこさえた皿に盛り付けて渡してやろうとしたところ、
マンチカンの手に渡る前に、とつぜん稲荷の子狐が爆速で突入してきまして、
美味しそうな蒸し焼き魚をガブチョしたところ
ドチャクソに熱かったらしく悶絶しました。

非常にフィクションです。 そういう物語です。
細かいところは気にしてはなりません。

「いたい。あっつい。いたい」
「ほら、水で冷やしなさい」
「おみず、つめたい。やだ。あっつい」
「だから。その熱いやけどを、水で冷やすんです。
ほら。口を開けなさい。 あけなさい。
ほら。 ほーら。 こーぎーつーね。
やけどの治りが遅くなりますよ」
「やだ、やだ。おさかな食べる」

「……はぁ」

パチ、ぱち。
低温の雪原で、マンチカンの目の前で、
鍋とホイルを熱する焚き火が火花を吐きます。
パチ、ぱち。
遠くで獣が叫ぶ声が聞こえる程度の無風と静寂で、
管理局の局員、マンチカンが火を見つめます。

心の片隅で、自分の目標を考えておるのです。
というのもマンチカン、他人に先日「非力」と言われたのが、相当にショックであったのです。
で、強くなりたいとは思うものの、
他の局員から「お前が欲しい『強さ』ってどういう属性の強さ?」と聞かれまして。

「で、どういう強さが欲しいか、少しでも思い付きましたか、マンチさん?」
「難しいです。いろいろ、アレコレ、ずっとずっと、心の片隅で考えてはいたんです」

「それで?」
「とりあえず強くなりたいです」
「格闘技術を習得したい?」
「うーん、」
「フィジカルとして、筋力を増やしたい?」
「んんんんぅぅぅ……」

「肉焼けましたよ」
「たべます。」

おにく!おにく!キツネ、たべる!
ふーふーしながら魚をちゃむちゃむ、食っておった子狐が、ホカホカ焼けたお肉に尻尾を振ります。
「また、やけどしますよ」
「おにく、おにく」
「まて。ステイ。スーテーイ。こぎつね」
「おにく!」
「だから待ちなさいと何度、 こーぎーつーね」
「あつい。」

ジタジタ、バタバタ、わちゃわちゃ。
どこからともなく突入してきた稲荷子狐と、マンチカンと同じ職場のツバメとが、
何やら楽しそうにアレコレしています。

「うーん……」
強さって、 自分が欲しい強さって、何だろうな。
コトコト音をたてる鍋からスープをよそって、ふーふーしながら食べるマンチカンは、
心の片隅でその後も数日ほど、自分はどういう強さが欲しいだろうと、考えておったとさ。

12/19/2025, 6:27:45 AM