「今日で4日目だよ」
少年は皿洗いをしている母へ深刻げに告げた。
暗い星々の中でつきが一層目立つ、寒い冬の出来事だった。
カーテンから見える向かいの家が月明かりに照らされて、まるでそのままホラー映画にでてきても違和感がないような、威圧感を醸している。その一軒家は独り身の老人がずっと住んでいた。
その家の一階の壁に張り付いた小さな窓。それが、クッキーの型で形どったように黄色く光っている。
「また言ってるの?それはちょっと心配だね」
母は緑陽のない声でただ一言つぶやいた。
少年は、あしらわれているという恥ずかしさに思いやりの心で蓋をして、更に声を張り上げた。
「4日間も明かりがついたままなんておかしいよ!」
「確かに心配だけど、大丈夫だと思うよ。きっと旅行にでも出かけてるんじゃない。どっちみち、あなたが心配することじゃないよ。」
少年は母の言葉を無視して、カーテンの隙間からもう一度だけその窓を除きこんだ。
次の日の放課後ーー、少年は老人の家の前に立っていた。
この老人とは話したこともなければ、ろくに挨拶を交わしたこともない。ごく稀に少年から老人へ挨拶をすることはあっても、返されたことはなかった。
しかし、少年は物おじしない性格であった。
こもった音のチャイムが老人の家に響き渡ると、少年は相手の様子を伺う。
2秒、3秒と経過する。いっさいの反応がない。
20秒ほど待ってもなんの反応もなかったので、もう一度チャイムを鳴らした。
すると、ドンという小さな音が聞こえた。
反射的に音の方向を見るとそれは毎晩、灯が付いている例の窓がついた部屋から聞こえたものらしかった。
その音を引き金に、何かを殴るような、叩くような音が何度も何度も連続して響いた。
少年は怖気付いて顔がサッと青くなった。
幽霊という2文字が少年の頭を埋めた。
時期に呻き声のようなものまで、聞こえてくると少年はとうとう我慢できなくなって背後にある自分の家に逃げだした。
2日後の20時頃ーー、カーテンから大家さんのような人の後ろ姿が老人の家の扉を叩いているのが見えた。
あの恐ろしい体験を、あの人もするんじゃないかと身構えたがその人は次第に諦めたようで、どこかに行った。
その次の日の放課後ーー、老人の家の前にはパトカー何台かが止まって、門には立ち入り禁止のテープがはられていた。
少年は大谷さんらしき人と話している警察官のところへ駆けて行って、事情を聞いた。
警察官は淡々と告げた。
「ここに住んでいたお爺さんが亡くなったんだよ」
少年の顔は引き攣る
「いつから?」
「推定時刻は3日前かな。生活習慣病で足が骨折して助けも呼べず孤独死だよ。もしかして知り合いかな?」
少年はただ正気のこもってない声でいいえと呟き、向かいの家に帰っていった。
帰ったあとで少年は、このことは墓まで持っていこうと決意した。また、気遣いは自分のために使うものなんだと、心の底から実感したのであった。
12/6/2025, 3:06:29 PM