中学生3

Open App
2/23/2026, 10:25:34 AM

「来場者を把握するためにフルネームをお願いします」

受付に座った長い髪を一つに束ねた若い女性は手のひらをこちらに見せて長机の一部を指した。

指されたほうを見るとバインダーに一枚の紙が挟まっていて、来場者が書き残していったであろう名前がずらりと並んでいる。
私はできるだけ落ち着いた声で「はい」と言って長机に自分のカバンを置いた。その動作をしながら名前が書かれた名簿に目を通す。

歪な線と線で作られた枠に、一人一人が違う線を組み合わせて一つの漢字を書き、自分の痕跡を残している。

漢字とは不思議なもので、一つの漢字に隠された味がある。
例えば、「穏」という漢字は温和で柔らかな優しい味がする。

逆に「厳」という漢字は堅くて苛烈かつ、厳格な味が染みついてしまっている。

ふたたび意識を視覚に戻す。さまざまな筆跡でかかれた漢字が視界に入っては消えていく。

そのたびに、その漢字の味が口いっぱいに広がって、その人の人生を食べたような気がして気分が胸焼けする。

私は、一つの名前で目をとめた。おそらく、名簿を一心不乱に読み漁っていたのは時間にして10秒ほどである。

その時、私の背後で床が軋む音がした。後ろでみていた職員が不審に思って私に声を掛けようとしているのかもしれない、いやそうに違いない。だって今の行動は明らかに不審であった。もし私がこの大学院の運営側なら一度声をかけてみるはずである。

私はバインダーの横に置いてあるボールペンを握って指の腹でノックを押した。が、既にボールペンの芯はでていたらしい。もう一度ノックを押してふたたび芯をだす。

カチ、カチ。ボールペンをしまって、出す音が妙に響いた。

そして私は私のために用意された私の欄に私が考えた名前を収めた。もちろん、私が考えた名前とまで言っているので、この名前は偽名である。こんなところに本名は書けない。

本当は、自分の筆跡も残したくないのだが、だからと言って筆跡で悟られないために、定規を取り出してサインをしだすのは不審すぎる。もしこの後に警察がここへ追ってきて、運営側に聞き込みなんかをおこなえば、警察側に私の偽名が広まることは間違いなしである。

できるだけ、どこにでも居そうな普遍的な苗字、普遍的な名前を書いたがデータベースにこの名前が登録されていなければ一瞬でこの名前は偽名であることがバレる。

そこで警察がさらに怪しく思って、この会場で聞き込みを続けると、今目の前に座っている受付の女性が「赤のインナーに白のコート、怪しげなサングラスをしていました」と私の特徴を証言される。この一瞬でそんな未来が見えた。


私はできるだけ、角張った文字で、いつもの筆跡と似せないように偽名を書いた。

受付の女性に視線を上げると、女性は真顔でパンフレットを手渡してきた。私は反射的に空いている方の手でパンフレットを受け取ると、ボールペンを置いてカバンを持ち、受付を後にしようと歩き出す。

「ご来場ありがとうございます、無料の質疑応答も行っておりますので是非」背後で女性の抑揚がない声が聞こえた。最後らへんの「おりますので〜」から声が遠くなったのはきっと、私の方ではなく、次の人の方へ顔を向けたからだ。

私は急ぎ足でエントランスからロビー、ラウンジと抜けてトイレの看板が吊り下がった廊下へと進んだ。

廊下へ入ると右手はガラス張りで建物内から中庭が見える仕様になっていて、左手にはいくつかドアがあり、その廊下の突き当たりにさっきと同じトイレのマークがみえた。
女子トイレに入って個室に鍵をかけると、私はようやく肩の荷が下りた。自分でもビックリするほど、気が楽になっていくので、やはり今の私は人の目が怖くて仕方がないのだということに気づいた。


ーーーーーーーーーーー

もうすぐ中学も卒業です。高校生なりたくない(体調心配、チャリ通無理、働きたくない、多分友だちできない)けど、時間は止まらんしそろそろ自分の好きなことでも見つけて知識つけたいな。

12/9/2025, 1:18:08 PM

“痛い”

冷たいの次に抱いた感想はただそれだけだった。


そして沸々とあのディーラーに怒りの感情が湧いてでた。
いや、あれはディーラーなんて大層な肩書きで呼ぶ者じゃない。ただの詐欺師だ、あんなもん。

白い息に悴む指先。たったひとり、山道で車をニュートラルにして手動で何トンもある車を押し進める。

なんでこんなことをしているのかというと、あの詐欺師に「しっかり不凍液は入れてあるんで〜」と言われたことを、を信じたからだ。
不凍液がないからエンジンの冷却水が凍ってやがった。
そんでオーバーヒート起こして走行不可。

おまけに、最近スタッドレスのタイヤに変えたので全くもって前に進みにくい。進まないではなく、進みにくい。

全くもって進まないのであれば自分でも車を捨てようと割り切れるのだが、今回の場合、押せば少しは前に進むので捨てる勇気すら持てないのである。

タイヤの性能だけは一丁前なんだなと皮肉を被りながら、いつまでこうしていられるだろうかとも考える。

こんなに寒い山道の中をこの時間帯に一体誰が通るのか、知れたもんじゃないし、実際ハザードランプなんかつけなくていい位人通りも車通りも少ない。

第一、ここが圏外じゃなくばすぐにJAFを呼べたのに。
というか圏外が原因で携帯が繋がらないのかすら分かっていない。

降り続ける雪が原因で電波が蔑ろになっているんだとしたら、苦労して電話が繋がる場所まで車を押し続けなくてもいいはずであった。

車をおいて歩いて山麓や電波の繋がる場所に行くにしても現在地が山奥すぎてまたここに帰って来れる自信がない。
そもそも、貴重品は置いていけないため荷物を背負っての夜の下山は体力的にも限界に近い。

だから車の中で暖房で暖まったり風を避けて休憩しながら車を少しずつ押して、もっと夜が深まる頃になってもまだ電波が繋がらないのであればそこで車中泊をしようと、考えついたのであった。

それがもっとも車を愛する自分らしい見解であった。
しかしながら、やはり自分にもあの詐欺師にも、その共謀者(最初に話をした小林とかいうやつ)にも執拗にイラつく。

自分でも確認しておけば不凍液の補充ができていないと意義を申せていたのにこんな経験をしてからではもう遅い。

思ったのだが、今この瞬間、冬眠していないクマなんかが飛びついてきたらきたらどうするのか。俺はせいぜい車の中に入ってロックをし、ヤツが空腹でないことを望むことしかできない。

しかし、冬眠していないクマの腹が空いていない訳がないのでやはり俺は喰われてしまう。くちゃくちゃと腹を破られ、腸を麺のように吸われ、自分が咀嚼される音を聞きながら静かに絶命する。
それならば、火事で焼死の方がまだマシであった。

しかも、クマは栄養が少ないところは食べないという習性がある。どうせ死ぬなら家族にショッキングな自分の遺体など絶対に見せたくない。 

ガサッっと右の方から音がした。

「わぁ!!!」

俺は脊髄反射で声を上げて辺りを見渡した。

何もないと知ると、俺は自分の手を息で暖めて、車のドアを開け、パーキングに切り替えた。

「休憩だ休憩。」

俺は気持ちを切り替えようと声に出してみる。
が、全くもって今の状況についての不安が消え失せるわけでなかった。むしろ、その自分の声が予想以上に疲れていることに気づいた。





ーーーー

飽きた

「凍える指先」

12/7/2025, 12:00:21 PM

寒いね、そう言って彼女は忙しなく赤色のセーターを温めるように何度も擦った。僕は柔らかく笑って鞄からマフラーを取り出した。

「そうだね。でもほら、マフラーあるよ」
「ほんと?ありがとう!」

そうやって彼女は嬉しそうに僕を見上げた。

「このマフラーは、緑だからつけたらクリスマスカラーになるね」

僕はマフラーを彼女に巻きつけながら言った。

「ホントだ、可愛い」
「うん。かわいい」

彼女は少し照れ笑いを浮かべてありがとうと言った。

「そういえば、クリスマスは何しようか?」
「なんでもいいよ!」
「皆んなを誘ってパーティとか?」

彼女は少しだけ笑って、いいんじゃないと言った。
僕はそんな彼女の様子に少しだけ笑ってから彼女の手を握った。とても冷たくて狂おしいほど愛おしい小さな手。

「冗談だよ。2人で過ごそう」
「....いいじゃん」

彼女は幸せそうに目を細めて頷いた。





12/6/2025, 3:06:29 PM

「今日で4日目だよ」

少年は皿洗いをしている母へ深刻げに告げた。
暗い星々の中でつきが一層目立つ、寒い冬の出来事だった。

カーテンから見える向かいの家が月明かりに照らされて、まるでそのままホラー映画にでてきても違和感がないような、威圧感を醸している。その一軒家は独り身の老人がずっと住んでいた。

その家の一階の壁に張り付いた小さな窓。それが、クッキーの型で形どったように黄色く光っている。

「また言ってるの?それはちょっと心配だね」

母は緑陽のない声でただ一言つぶやいた。

少年は、あしらわれているという恥ずかしさに思いやりの心で蓋をして、更に声を張り上げた。

「4日間も明かりがついたままなんておかしいよ!」
「確かに心配だけど、大丈夫だと思うよ。きっと旅行にでも出かけてるんじゃない。どっちみち、あなたが心配することじゃないよ。」


少年は母の言葉を無視して、カーテンの隙間からもう一度だけその窓を除きこんだ。


次の日の放課後ーー、少年は老人の家の前に立っていた。

この老人とは話したこともなければ、ろくに挨拶を交わしたこともない。ごく稀に少年から老人へ挨拶をすることはあっても、返されたことはなかった。

しかし、少年は物おじしない性格であった。
こもった音のチャイムが老人の家に響き渡ると、少年は相手の様子を伺う。

2秒、3秒と経過する。いっさいの反応がない。

20秒ほど待ってもなんの反応もなかったので、もう一度チャイムを鳴らした。

すると、ドンという小さな音が聞こえた。
反射的に音の方向を見るとそれは毎晩、灯が付いている例の窓がついた部屋から聞こえたものらしかった。

その音を引き金に、何かを殴るような、叩くような音が何度も何度も連続して響いた。

少年は怖気付いて顔がサッと青くなった。
幽霊という2文字が少年の頭を埋めた。

時期に呻き声のようなものまで、聞こえてくると少年はとうとう我慢できなくなって背後にある自分の家に逃げだした。


2日後の20時頃ーー、カーテンから大家さんのような人の後ろ姿が老人の家の扉を叩いているのが見えた。
あの恐ろしい体験を、あの人もするんじゃないかと身構えたがその人は次第に諦めたようで、どこかに行った。

その次の日の放課後ーー、老人の家の前にはパトカー何台かが止まって、門には立ち入り禁止のテープがはられていた。

少年は大谷さんらしき人と話している警察官のところへ駆けて行って、事情を聞いた。

警察官は淡々と告げた。
「ここに住んでいたお爺さんが亡くなったんだよ」

少年の顔は引き攣る
「いつから?」
「推定時刻は3日前かな。生活習慣病で足が骨折して助けも呼べず孤独死だよ。もしかして知り合いかな?」

少年はただ正気のこもってない声でいいえと呟き、向かいの家に帰っていった。



帰ったあとで少年は、このことは墓まで持っていこうと決意した。また、気遣いは自分のために使うものなんだと、心の底から実感したのであった。



12/5/2025, 10:40:46 AM

「lookin’ for love 今建ちなら〜ぶ、街の中で口ずさむ」

正気のない声が、私の口から冷たい空気の中を振動して暗い海へ逃げ出していく。

冷たい風が私のコートを撫でて、船上を吹き抜けていった。

私の黒い目に反射している故郷の光は、寡黙なデッキとは打って変わってチラチラと鮮やかな旋律を奏でている。

久しぶりに口を開いてみて、案外自分の唇が乾き切っていたことに気づいた。しかし構わず次のフレーズが私の口から滑り落ちていく。

「Ticket to ride 呆れるくらい君へのメロディー」

思えば、私は自分の街からあまり出たことがなかった。
街の外に友達と呼べる仲間もいないし、長い間街の外に宿泊したこともなかった。

キラキラと輝く一つ一つの光すべてに知性と感情が詰められていて、それがその人らの人生なんだと思うと自分の人生はあまり大したものじゃなく思えた。

私は今まで感じた怒りや悲しみ一つひとつに、蓋をかけて火を吹き消していく。


「遠い記憶の中にだけ 君の姿探しても」


白い息が私の周りの空気に癒着して溶けていった。
光の数を数えようと北の方から数え始めたが、視界にモヤが掛かったようで光が一つに見えた。

「もう戻らない でも忘れない 愛しい微笑み」


また、冷たい風が私の頬を撫でた。ほんの少しだけ暖かくなった空気は故郷の誰かがまた触れるのだろう。
そして、今触れた冷え切った空気も、今から行く街の誰かが触れたものなのだ。



ーーーーーーーーー


三年弱のアカウント消えました。
もともと「中学生」っていうアカウントでたまに投稿していたんですけど、ログインするのを失念していて引き継ぎができませんでした( ; ; )


Next