『凍てつく鏡』
鏡よ、鏡よ、鏡さん……。
そんな風に問いかけられた事があったのは、いつの日の事だったか。
私は鏡、魔法の鏡だ。
白雪姫の時代良かった。
私もひっきりなしに仕事があり、丁寧に扱われ、なおかつ私のことを覚えてくれる人が居た。必要とされていた。
今はもう、ない。
東の国より、えーあい、なる技術がもたらされて、私の仕事はいっきに減ってしまった。
私は時代遅れの骨董品らしい。
私は日の当たらない物置部屋の片隅に打ち捨てられた。
私の心は凍てつき、氷のように冷たくなる。
あぁ。誰でもいい。私を見てほしい。私を必要としてほしい。
……今ならば、あの狂気のお妃様の事が、痛いほど良くわかる。
あの城に、彼女の味方は誰一人居なかった。
彼女は誰の目にも映らない存在だった。
私たちが愚かだと称した行動は、彼女が自分を見てほしくて、必死に助けてと足掻いて証だったのだ。
あぁ、私はそんな彼女になんて酷いことを言ってしまったのだろう。
心の拠り所が、私という道具しかなかったというのに。道具が主人の心に寄り添わず、道具としての自尊心を優先させてしまった……なるほど、それは私が捨てられる訳だ。
私は、道具として、失敗作だった。
もう一度、もう一度だけでいい。
お妃様、あなたに会いたい。
会ってあなたに謝りたい。
誰一人味方が居ない中、それでも健気に必死に頑張ったあなたの姿を、私はこの世で一番美しいと、そう言ってあげられたなら……私は永久に壊れてしまっても、構いません。
……そんな祈りが神にでも通じたとでも言うのだろうか。
声が、した。
「あら……こんなところに、何か、あるわ?」
ばさりと、私に掛けられていた厚い布が剥ぎ取られる。
私の世界が黒一面から光に溢れ、さまざまな色が飛び込んでくる。
そして、私という鏡に映った姿に私は息をついた。
真っ白い髪に、ややつり目で冷たく思えてしまう切れ長のブルーの瞳。
あぁ、まるで、お妃様の生き写しのようではないか。
そんな彼女がドレスではなく、ボロ切れのような服を纏っていることに首を傾げる。
「まあ、こんなに素敵な鏡が仕舞われていたのね! うーん。どうしよう。あたし、今、鏡が無くて困っていたのよねぇ……誰も使って居ないみたいだし、あたしが使ってしまおうかしら!!」
「あなたに使って頂けるなら、光栄です。レディ」
「きゃ!!」
これは、見捨てられた魔法の鏡と、見捨てられた国王の愛人の娘である彼女が出会った話。
そして、ここから国の頂点に登り詰めて、一緒に世界を救ったりして、二人で一緒に笑い合う話……。
おわり
12/27/2025, 7:35:11 PM