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 仕事を終えて外に出た。人が多い気がする。ケーキを売る人の熱を帯びた声が聞こえてきた。ああ、今日はクリスマスイブだった。

 足早に人々の間を潜り抜ける。どこもいっぱいだろうなあ。食事をするのに、いつもの喫茶店に行ってみた。店の扉を開けると、テーブルの一つ一つにキャンドルが灯っていた。

 あっ。思わず足がすくむ。「いらっしゃいませ」。いつもの窓際の席に座った。手元で注文を終えると、キャンドルがゆらゆら揺れるのを見ていた。本物の炎を見るのは、久しぶりのような気がする。不規則に、ちらちら揺れるのが何とも心地よかった。

 一人の客が多く、キャンドル以外はいつもの雰囲気だ。「お待たせしました」。サンタの姿をした人が笑顔で立っていた。よく見ると店主だ。普段は、ちょっとクールな感じだから、似合っているのかいないのかよく分からない。笑いが込み上げそうになった。

 料理の皿にも、さりげなくサンタのイラストが描かれたピックが刺してある。キャンドルの灯りに照らされるサンタの笑顔を見ながら、ふわっと心があたたかくなった。

「揺れるキャンドル」

12/24/2025, 9:02:19 AM