ぽんまんじゅう

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〈秘密の手紙〉【途中】


 大人達は皆、森には悪い鬼が住んでいると言う。彼らは森に迷い込んだ子供を攫って食べてしまうから、もし鬼に会ったらすぐに逃げろ、と。だが私以外の村人達が信じているこの言い伝えは正しい情報ではない。鬼は私達と同じようにただ平和に生きているだけで、人間の子供に危害を加えたりはしない。

 初めて大人達と森に行った時、私は迷子になった。大人の人数に対する子供の数が多すぎるこの村では迷子は珍しくはないことだ。夜になっても森の終わりを見つけられず、冬の寒さに震えながら泣いていた時、1人の少女に出会った。風変わりな服を着た彼女の頭には二つの小さな角がちょこんと乗っかっている。鬼は恐ろしいと聞いていたが彼女は優しく、鬼の洞窟まで連れて行ってくれた。洞窟の鬼達も親切で、私を食べるどころかパンのようなお菓子をくれ、温かい毛布まで用意してくれた。助けてくれた鬼の少女とは会話も弾み、私たちはたちまち友達になった。
 「ねえ、私達もう会えないのかな?」
翌日、少女が村まで連れて行ってくれている時、私は呟いた。
「うーん。人間は私達のことを勘違いしてるみたいだし、難しいかな。」
「そうか…。もっと話したかったのにな。」
私たちは黙ったまま森の中を歩いた。あちらこちらの枝から村でもよく見る鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「あ、良いこと思いついた。私達、手紙交換しない?」
数分後彼女が目を輝かせながら提案した。
「それ、凄くいいね!でも、どうやって?」
彼女はいたずらっぽく笑った。
「明日早速送ってみるから、楽しみにしてて」
 翌日、家を出ると1羽の鳥が飛んできて、目の前の壁に停まった。嘴に葉っぱのようなものを咥えている。それは彼女からの手紙だった。あまりに嬉しくて何度も何度も読み返した。私は部屋にかけ戻り、急いで返事を書いて鳥に渡すと、それを咥えて森の方へ飛んでいった。
 こうして私達の手紙交換が始まった。大人達に鬼と関係があることがバレたらいけないので、私は隠し続けた。だから2人だけの秘密の手紙は5年もの間バレることはなかった。
 だがある日、鬼狩りが始まった。1人の鬼が村に出てきたので、村人が襲われる前に殺そう、ということだった。遂には誰かが鬼を匿っている、という噂まで流れだし、以前から鬼の伝説の研究をしていた私は疑われてしまった。
「鬼狩りが始まりました。そちらにも武器を持った村人達が行くかもしれません。なんとか逃げてください。誰かにバレたらいけないのでもう手紙交換も終わりにしましょう。さようなら。」
私は最後の手紙を鳥に渡した。そして、秘密を突き通すため、今まで彼女がくれた手紙を火に投げ込んだ。

12/5/2025, 9:44:32 AM