花筏

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「君が隠した鍵」

「落花流水」。死んだ親友が遺した小説のうちの一つ。
彼が自殺する1週間ほど前、俺はやつからこんなことを聞いた。

「『落花流水』には、ある特別なことを隠してるんだ。むかし、俺が言ってたこと覚えてるか?あるお宝を見つけたって話。そのお宝にまつわることが書いてある。場所、お宝の中身、あるいはまだ別の何かか。その辺を小説の中で探してみてくれ。ヒントは…、教えなーい笑。自分で探してくれ。お前なら見つけられるさ。親友だろ?もし見つけられなかったらって?その時はその時さ。いいんだよ別に。無理に見つけなくても。どんなものでも、いつかは塵となって土に還るんだ。ただ、あれを見つけるのがお前であって欲しいなって思っただけさ。」

そんなこと言ったって、831頁もある小説の中からそんなもん見つけろって言うのかよ…。
物語としては、ある少年が幼なじみの少女に恋をするが思いを伝えられず…とまあ、ありきたりな恋愛モノか。
まぁ、読むか…


800~801頁
「…どうしても伝えたいと願っていたけど、僕が意気地無しなせいで、彼女は行ってしまった。この思いはどうなるのだろうか。この思いとともに、塵となって土に還りたい。僕はどうすればいいんだ。…」

ん?この言葉…よくあいつが言っていたな。
あ、もしかしてこれか?
801頁13行目
「彼女への手紙を収めた箱は、よく通っていた神社の鳥居の右柱から4番目の木の根元に埋めた。箱の鍵は僕の部屋の机の上から三番目の引き出しの二重底に隠した。これは、彼女への思いを封印するという僕なりの意思表示と決意だ。もう僕は前に進もうと決め……。やっぱり、やっぱり…、でも……」

これか?あいつ言っていたお宝にまつわることって。
…はぁ〜。行ってみるか。あいつの願いだしな。


死んだあいつの部屋には、友人ということで簡単に入れた。まだ片付けられてないようだったから、引き出しや部屋もそのままになっていた。
案の定、引き出しの上から三番目の二重底に、鍵があった。むかし、あいつとよく一緒に行った神社の、鳥居の右柱から四番目の木の根元を掘ってみると、…あった、箱が。

鍵を開ける。
中に入っていたのは…
あまたの原稿用紙、手紙、便箋、そして、その底に隠されるように置いてあったトパーズ。
あいつの言っていたお宝ってこれか?
原稿用紙を見てみると、そこには…。
「俺へのラブレター?」
俺に気持ちを伝えたいが、幼なじみであり親友であるという関係性を崩したくなくて苦しいという旨のことが多く書かれていた。そして、そんな思いを昇華して作られた、恋愛小説の数々。未発表の、作家デビューする前のものと思われるものがほとんどだった。

…なあ、お前の気持ちはよくわかったよ。じゃあ、俺は今後、どうすればいいんだ?お前のいない世界で…


11/24/2025, 2:31:30 PM