ぼくは何も知らなかった。
ぼくのお父さんも、お母さんも。
おじいちゃんもおばあちゃんも、きっと知らなかった。
ぼくたちはただ生まれて、
生きることに精一杯だった。
それが悪いことだなんて。
ぼくたちがただ、ここで暮らしていることが、
「害」になるって、ここの人間が決めたんだ。
いつからそんなことになったのか、
ぼくたちは知らなかった。
ぼくたちが生まれるずっと前、
ぼくたちの祖先をここに連れてきたのは人間なのに。
ぼくたちは、ぼくたちの愛で生まれた。
家族もたくさん増えた。
ぼくたちに似た生き物はいるけれど、
「あいつらとは仲間じゃない」と、ここの人間は言った。
だから、ぼくたちがここに居続けるのは「害」なんだって。
ぼくたちは、どこへ帰ればいいんだろう?
帰る場所なんて、知らないよ。
ぼくは生まれてから、ずっとここにいる。
でも、ぼくたちはいなくなった方が良いって。
ぼくのお父さんも、お母さんも、
おじいちゃんもおばあちゃんも、
みんながいなくなったら、たくさんのここの人間が喜ぶんだ。
ぼくたちの祖先がもともと暮らしていた場所へ
帰りたくても、どこなのか知らない。帰り方もわからない。
ぼくたちみんながいなくなれば、
どれだけの人間が喜んでくれるんだろう?
ぼくたちは悪いことをしたくて、ここにいるんじゃないよ。
でも、ここの人間が決めたんだ。
「お前たちは、たぬきの仲間じゃないから。一匹残らずいなくなれば、ここの人間の暮らしは良くなるんだ」と。
#87「仲間になれなくて」
9/8/2025, 8:01:08 PM