川柳えむ

Open App

 テーブルの上のキャンドルが揺れる。
 キャンドルの周りにはたくさんのごちそうがある。
 でも、それは私の為じゃない。
 イエス・キリストとかいう奴の為。その誕生日の前日とかいう、よくわからない祝いの為だ。
 私だって誕生日なのに。なぜかまとめて祝われる。誕生日ですらない奴とまとめて。
 だから、私は今日という日が嫌いだった。

 ケーキが運ばれてくる。一つしかないケーキが。
 ケーキには、私の歳の数だけのろうそくが並んでいる。
「お誕生日おめでとう」
 その言葉は誰に向けたものなのか。
 私はムスッとしたまま、そのケーキを見つめた。
「どうしたの? 嬉しくないの?」
「知らないおじさんの誕生日と一緒にお祝いされても、嬉しくない」
「知らないおじさん? 何言ってるの。今日はあなたの為の日よ。あなたをお祝いする為の日」
「でも、今日はクリスマスイブだし……」
 母が溜息を吐いて、ケーキの真ん中に乗ったプレートを指差す。
「ここになんて書いてある?」
 そこには『お誕生日おめでとう』のメッセージと、私の名前が刻まれていた。
「今日は、あなたが生まれたことをお祝いする日なの。クリスマスなんて二の次よ」
 たしかに、これだけ見ると、クリスマスなんて関係ない。私を祝う為の誕生日パーティーだった。
「でも……」
「ほら、これも開けてみて」
 プレゼントを渡される。
 その中には、私がずっと欲しいと言っていた動物達の人形が入っていた。
 思わず目を輝かせる。
「お誕生日おめでとう」
 ようやく納得した私は、私の為に用意されたろうそくの日を吹き消した。

 でも、後からよく考えてみて気付いたけど、ケーキやプレゼントはクリスマスとまとめられてしまっているし、結局損している感じは変わらないんだよね。


『揺れるキャンドル』

12/23/2025, 10:41:45 PM