「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰だ?」
「それは女王様でございます」
いつもの質問。いつもの解答。
女王はこの答え以外は求めていない。この答え以外を発することは許されない。
真実を映せない鏡はどんどん凍っていく。
本当は、世界で一番美しい人は身近に別にいた。
知っていて、それでも語ることはできなかった。
「あら、美しい鏡ね」
ある日、その美しい人が、部屋に入って鏡を見つけた。
「少し曇っているわね」
その美しい人は、自分の服の袖で鏡を磨いた。
白く曇っていた鏡は輝きを取り戻し、凍っていた心は溶けていくように感じた。
「これでよし」
美しい人が笑う。
もう噓は吐けなかった。
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰だ?」
「それは――」
温かさを知る鏡は曇りなく、真実を映し出す。
『凍てつく鏡』
しんしんと雪が降り積もる。
夜も更けて辺りは暗いのに、カーテンを開けると、雪が部屋の灯りを反射して、辺りが輝いた。
静かだなぁ……。そして窓から伝わる冷気が寒いな……。
もう寝よう。暖かい部屋で、猫を抱きかかえて
『雪明かりの夜』
昔々あるところに、お父さんとお母さん、そして、三人の子供が住んでいました。
三人の子供は三つ子で、三人の子供が産まれた時、お父さんとお母さんは大きなショックを受けました。
なぜなら、三人のうち二人はそっくりでとてもかわいらしかったのに対し、残りの一人がとても醜かったのです。
悩んだお母さんは、その子を捨ててしまおうかと思いましたが、お父さんがそれを止めました。
代わりに、家族以外にその子の存在が知られることのないよう、その子は屋上にある倉庫に入れられることになりました。
かわいらしい二人の娘は、彼女達に合ったかわいい服や素敵な部屋が与えられていました。
しかし、二人の娘はそのことを不思議に思っていました。
「どうして私達にはこんなにかわいいお洋服やお部屋があるのに、あの子にはあんなにみすぼらしい服やお部屋を与えるの? どうしてあの子だけ酷い目に遭わせるの?」
二人の娘がお母さんに尋ねますが、「気にしなくていい」と言われてしまうだけでした。
それでも二人の娘は、ほかの子達と同じようにその子と仲良くしていました。
お父さんとお母さんは、それを快く思っていませんでした。
その頃、お父さんは妙な宗教にはまっていました。
そして、どんどんおかしくなっていきました。
それは、三人の子供の六歳の誕生日のことでした。
お母さんはかわいらしい二人の娘のために、誕生日パーティーを開こうとはりきっていました。
お父さんはそんな特別な日だというのに、なぜか朝から姿が見えません。
お母さんが一人で頑張って準備をしているうちに、パーティーが始まる時間になりました。二人の娘のお友達も大勢来ています。
しかし、そんな時間になっても、お父さんは出てきませんでした。
「お父さんたら、どこへ行ったのかしら?」
お母さんがお父さんを探しに行こうとした時です。
家が大きく揺れたかと思うと、どこからか血や汚物に塗れた化け物が現れました。
その化け物は、あの醜い娘でした。
お父さんは、悪い宗教にはまってしまい、生贄を捧げて神を呼び出そうとしていたのでした。そして、生贄として捧げられた娘にその神——邪神が乗り移ってしまったのです。
化け物となってしまったその子は、怒りや悲しみ、憎しみといった負の感情が溢れ出し、とうとうお父さんとお母さん、それだけでなく、その場にいた二人の娘の友達もみんな殺してしまいました。
ただ、いつも仲良くしてくれた、その子にとって大事な姉妹、そして友達でもある二人だけは殺しませんでした。
「どうして私だけ?」
その子は全てを恨んでいました。
それでも、いつも一緒に遊んでくれる二人の姉妹だけは、恨み切れなかったのです。
お父さんは怪しい神様を信仰しているようでした。その子を生かしているのも、どうやらそれに関係しているようでした。
その子はずっと思っていました。
本当に神様がいるのならば、私の全てを捧げるから、どうか私の願いを叶えてください。どうかあの人たちに罰を——。
祈りは届き、願いは叶えられました。
そうして、三人は神様になりました。
『祈りを捧げて』
あの日のぬくもりを忘れられずにいた。
ここで待っていれば、いつかきっと迎えに来てくれるんじゃないかと。ずっと、ずっと待ち続けた。
淡い期待は打ち砕かれ、もうその場から動こうにも動けない。
瞼が落ちるその時、ふわっと何かが体に触れた。
それは、あの遠い日を思い出させるような、そんな待ち望んでいた温かさだった。
『遠い日のぬくもり』
テーブルの上のキャンドルが揺れる。
キャンドルの周りにはたくさんのごちそうがある。
でも、それは私の為じゃない。
イエス・キリストとかいう奴の為。その誕生日の前日とかいう、よくわからない祝いの為だ。
私だって誕生日なのに。なぜかまとめて祝われる。誕生日ですらない奴とまとめて。
だから、私は今日という日が嫌いだった。
ケーキが運ばれてくる。一つしかないケーキが。
ケーキには、私の歳の数だけのろうそくが並んでいる。
「お誕生日おめでとう」
その言葉は誰に向けたものなのか。
私はムスッとしたまま、そのケーキを見つめた。
「どうしたの? 嬉しくないの?」
「知らないおじさんの誕生日と一緒にお祝いされても、嬉しくない」
「知らないおじさん? 何言ってるの。今日はあなたの為の日よ。あなたをお祝いする為の日」
「でも、今日はクリスマスイブだし……」
母が溜息を吐いて、ケーキの真ん中に乗ったプレートを指差す。
「ここになんて書いてある?」
そこには『お誕生日おめでとう』のメッセージと、私の名前が刻まれていた。
「今日は、あなたが生まれたことをお祝いする日なの。クリスマスなんて二の次よ」
たしかに、これだけ見ると、クリスマスなんて関係ない。私を祝う為の誕生日パーティーだった。
「でも……」
「ほら、これも開けてみて」
プレゼントを渡される。
その中には、私がずっと欲しいと言っていた動物達の人形が入っていた。
思わず目を輝かせる。
「お誕生日おめでとう」
ようやく納得した私は、私の為に用意されたろうそくの日を吹き消した。
でも、後からよく考えてみて気付いたけど、ケーキやプレゼントはクリスマスとまとめられてしまっているし、結局損している感じは変わらないんだよね。
『揺れるキャンドル』