懐炉 @_attakairo

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もしも明日、追いかけてきた女の子が後ろのほうで転んだら、私は道を戻ることができるだろうか。
その子はこう言うのだ――『えへへ、大丈夫! 贈りものを届けにきただけなの』そして麻布の口を縛った袋を取り出す。『困ったとき役に立つよ。ひとりはさみしいと思うけど……がんばってね!』
伸ばされた手の肘、座り込んだ膝はまるく、擦り傷が目立ち、肌の下に薄く血の色が滲んでいる。私は尋ねる。痛くないのか? その子は答える。『慣れっこだから』。
私が中々受け取ろうとしないので、袋はその小さな両手に仕舞われた。
『贈りものはいらない?』
さみしそうな声と表情を浮かべて、その子は私を見上げてくる。その場に私はもういない。
道端にぽつんとその子だけが座っている。
布袋がほどかれ、石畳のうえに数粒、種子が転がり、それらは陽の光を浴びて瞬く間に芽を出した――『命はいらない?』蔓はあらゆる方向に伸び、天にのぼる先もあれば地を這い土に潜る先もある。何を目指し、背を伸ばすのか、だれもきっと教えてはくれない。
『私たちはいつだって傷のなかから芽を出すの』――『新しい命は尊いものかな?』――『無自覚に傷つけて罪に問われないのは不透明な罰を与えているみたい』
――私は振り返らず、それを遠い場所から聞いている。

【小さな命】

2/24/2026, 4:35:01 PM