もしも明日、追いかけてきた女の子が後ろのほうで転んだら、私は道を戻ることができるだろうか。
その子はこう言うのだ――『えへへ、大丈夫! 贈りものを届けにきただけなの』そして麻布の口を縛った袋を取り出す。『困ったとき役に立つよ。ひとりはさみしいと思うけど……がんばってね!』
伸ばされた手の肘、座り込んだ膝はまるく、擦り傷が目立ち、肌の下に薄く血の色が滲んでいる。私は尋ねる。痛くないのか? その子は答える。『慣れっこだから』。
私が中々受け取ろうとしないので、袋はその小さな両手に仕舞われた。
『贈りものはいらない?』
さみしそうな声と表情を浮かべて、その子は私を見上げてくる。その場に私はもういない。
道端にぽつんとその子だけが座っている。
布袋がほどかれ、石畳のうえに数粒、種子が転がり、それらは陽の光を浴びて瞬く間に芽を出した――『命はいらない?』蔓はあらゆる方向に伸び、天にのぼる先もあれば地を這い土に潜る先もある。何を目指し、背を伸ばすのか、だれもきっと教えてはくれない。
『私たちはいつだって傷のなかから芽を出すの』――『新しい命は尊いものかな?』――『無自覚に傷つけて罪に問われないのは不透明な罰を与えているみたい』
――私は振り返らず、それを遠い場所から聞いている。
【小さな命】
はいはい 肩の力を抜いて
寝返りうったら お座りにいこう
産声あげたばっかりの
まだ赤子だもん 大目にみてね
待ってて 今そこまでいくから
差しのべられた お手々はないない
まばたき厳禁
見守っていて
もう大人だもん 立ち上がれるよ
ちょっと傷つく
片付けられかた
個人差あるって
わかってるけど
個性も言外
繕ってるでしょ
配慮 配慮で聞き飽きちゃった
もう わかったよ
はいはいしながら 旅に出るから
探さないでね 帰ってくるまで
揃えられた お靴はないない
あと少しだもん
信じてあげて
見守っていて
目を閉じながら
密かに愛した
拙い羅列
【0からの】
針を出さないで
急に
黙って
見つめてこないで
気配なく 蜂に刺されたかとおもった
足を止め
焦らすように
遮断され
交互に振れる 赤色灯
けたたましい
警報音
黙って
見つめてくるだけ
そうだよ すぐに貨物列車が横切るから
危険だから
立ち止まっていないと
優しい目を 向けなくていいから
焦れったく
無理に 歩み寄らなくていいから
こうなってしまったら
あとは汽笛を
待つだけ
姿が見えない少しの時間
ぷつりと関心も 途切れるから
【同情】
硝子片を割り歩く
カシャンカシャンと音のなる
散り散りしている枝の先
粉々している焚き火の葉
ひび割れ 張り裂け
和楽を集め
からから風に吹かしてる
【枯葉】
目を閉じたら お別れね
振り返ることは しないでね
こんな日があったっていいじゃない
次に起きあがるための儀式なの
目を閉じたら
横にたらたら揺れてみる
あと数秒で お別れね
舌が鈍いのなら
甘いものは控えるように
体が冷たいのなら
毛布に潜んでいるように
お別れのときよ
すべて忘れてしまいなさい
手も振らずに
背中を 向けてしまいなさい
そんな日があったっていいじゃない
【今日にさよなら】