祈りを捧げて(難航した……シスター好きだから楽しかったけど!)
廃墟と化した大聖堂の中、欠落したステンドグラスを見上げた。
かつての街の象徴であり、人々が日々の安寧を願っていた。
崩れた天井の合間からは優しい陽光が振り注ぎ、割れたガラスの破片がきらめく。
風の音も無く、鳥や虫の鳴き声もしない静寂――その中、ふと後ろに気配を感じて、ゆっくりと振り返った。
「へぇ、やっぱりコチラにいらしたんですね」
「……シスター」
目隠しをした修道女は足音無く現れ、柔らかに笑う。まるでこちらが見えているように振る舞い、細かな変化すら見逃さないという気味の悪い女だ。一度だけ目隠しの無い姿を見たことがあるが、眼孔は空洞でますます不気味に思った。
更にはこちらには敵意や害意なんかは無く、ただただ善意だけ向けてくる。何一つ読めないやつだ。
「ふふふ。怖がらないでください、ナイトさん」
「朝の祈りでもしに来たなら勝手にしていろ」
「朝の祈りまではまだ時間があるのよね。貴方相手に祈ってみたら何かあるかしら?」
「……要するに違う用で来たんだな」
口を開けばこちらを振り回してくる。
無邪気そうな笑みの裏には何もなく、ただただ心の底から楽しそうに、嬉しそうに振る舞う。子供というのは大きすぎて、大人と言うには幼稚な面が多い。
言い回しも行動も面倒すぎて、思わず頭を抱えた。
「時間が来るまで、貴方と過ごしてみたかっただけよ。驚いた?」
「全く」
「つれないね。地元の魚ぐらい釣れなくて泣いちゃうわ」
わざとらしい泣き真似をしているが、当然無視を決め込む。
廃墟となったとはいえど、この大聖堂にはまだいくつか問題なく使えるベンチが存在しているはずだが……いや、この修道女のことだ、埃っぽいからとか抜かしかねない。
「……あ、聞こえた?」
「何も聞こえん」
「ふーん? 祈りの時間を告げる鐘の音がしたのに」
瓦礫の隙間から吹いた風がウィンプルと髪を靡かせる。麦畑を彷彿とさせる綺麗な金髪。ふわりと対照的な潮の香りが運ばれてきた。
何も知らなければこの光景にただただ見惚れていただろう。だが私は彼女がどのような人物か知っている。見惚れるわけがない。
「もともと、主神なんて呼んで神を崇めてたのに、この有様じゃ神なんて居たのかしらね?」
「ふん……どちらでもいい」
私の前へと修道女が歩く。
陽光を受ければ息を呑むほど美しく、まるで絵画の一部のようだ、大聖堂の中言うのは失礼かもしれないが、この世で最も神聖に見えた。
「ねえ、祈らないの?」
修道女らしく両手は握りしめることなく、ただ両腕を広げた。
「……いや」
私は跪く。
修道女の皮を被った、海の化け物に。
「あらあら……聴覚を捧げた次は何を捧げて何を得るわけ?」
化け物はいつも通り唇を開くことなく語り掛けてきた。
12/25/2025, 6:35:14 PM