『花束』
私の住んでいる国ではプロポーズの際に選ぶ花が大事とされている。
あるひとは薔薇を、あるひとは向日葵を。
もしも薔薇を受け取ったなら、薔薇を永遠に二人の住む家に飾らなければいけない。もちろん向日葵でもどんな花でもそうだ。
さて、私がなぜこんな話をしたかというと私は今、プロポーズをされている。
プロポーズをしてきたのは私が二年間付き合い続けてきた彼、遼。
「お願いだ、莉緒。私と結婚してくれ。」
彼はそう言い、カスミソウの花束を差し出してくる。
「遼…あのね、」
「カスミソウの花言葉は永遠の愛だ!君を愛する自信がある、永遠に…」
彼は顔を上げて緊張した表情を見せてくる。
「…えぇ、私でよければ…」
私はできる限り笑顔を見せて、そう、答えた。
「…あ、あぁ!幸せにする!」
彼は涙を流して花束を持って抱きしめる。
ああ、そっか。私の笑顔が引き攣ってることにも、気づけないんだ。
でも、きっと彼と結婚すれば幸せ。それに、彼は悪くない、私が悪いんだ。
贅沢だ。
こうやって彼に抱きしめられていても、目の前の花屋に置いてある勿忘草を見てしまうことは。
……私はプロポーズされるのは人生で二度目、だ。
元カレがいたんだ、私は10年前、プロポーズされた。
『莉緒!俺と幸せになろう!結婚してくれ!』
本当に、幸せだった。
『蓮っ!嬉しい!二人で生きていきましょ!』
彼の勿忘草が詰まった花束を受け取った。
『莉緒、絶対に幸せにする、愛してるよ』
『私も愛してる…ところで、なんで勿忘草なの?』
少し笑いながら、『もっとロマンチックな花もあるのに』と笑って顔を見る。
『莉緒。記憶っていうのは大切だ。いつまでも残る。目に見えない言葉も心に響いたなら一言一句、思い出せる。』
彼の言った通り、私はいまだに彼の言葉を一言一句簡単に思い出せる。
彼はその後こちらに顔を寄せて言った。
『どうか、大切なものを忘れないように。そう願って、この花を。』
私は大事に抱えて家に帰った。ずっと花に顔を埋めていた。
その21日後、彼は亡くなった。事故に巻き込まれた。
その周辺の記憶は、曖昧だ。
最後に見た彼の顔はぼやけて思い出せないのか、それともそれが正しい記憶なのか。
勿忘草、花言葉は「私を忘れないで」「真実の愛」
ああ、私は永遠に彼を忘れられないだろう。
今抱き合っている彼に申し訳なくて一筋の涙を流す。
そして、勿忘草に背を向け、彼と住んでいる家に…帰った。
ーーおしまいーー
2/9/2026, 1:09:52 PM