ゆに

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2/9/2026, 1:09:52 PM

『花束』

私の住んでいる国ではプロポーズの際に選ぶ花が大事とされている。
あるひとは薔薇を、あるひとは向日葵を。
もしも薔薇を受け取ったなら、薔薇を永遠に二人の住む家に飾らなければいけない。もちろん向日葵でもどんな花でもそうだ。

さて、私がなぜこんな話をしたかというと私は今、プロポーズをされている。
プロポーズをしてきたのは私が二年間付き合い続けてきた彼、遼。
「お願いだ、莉緒。私と結婚してくれ。」
彼はそう言い、カスミソウの花束を差し出してくる。
「遼…あのね、」
「カスミソウの花言葉は永遠の愛だ!君を愛する自信がある、永遠に…」
彼は顔を上げて緊張した表情を見せてくる。
「…えぇ、私でよければ…」
私はできる限り笑顔を見せて、そう、答えた。
「…あ、あぁ!幸せにする!」
彼は涙を流して花束を持って抱きしめる。
ああ、そっか。私の笑顔が引き攣ってることにも、気づけないんだ。
でも、きっと彼と結婚すれば幸せ。それに、彼は悪くない、私が悪いんだ。
贅沢だ。
こうやって彼に抱きしめられていても、目の前の花屋に置いてある勿忘草を見てしまうことは。

……私はプロポーズされるのは人生で二度目、だ。
元カレがいたんだ、私は10年前、プロポーズされた。

『莉緒!俺と幸せになろう!結婚してくれ!』
本当に、幸せだった。
『蓮っ!嬉しい!二人で生きていきましょ!』
彼の勿忘草が詰まった花束を受け取った。
『莉緒、絶対に幸せにする、愛してるよ』
『私も愛してる…ところで、なんで勿忘草なの?』
少し笑いながら、『もっとロマンチックな花もあるのに』と笑って顔を見る。
『莉緒。記憶っていうのは大切だ。いつまでも残る。目に見えない言葉も心に響いたなら一言一句、思い出せる。』
彼の言った通り、私はいまだに彼の言葉を一言一句簡単に思い出せる。
彼はその後こちらに顔を寄せて言った。
『どうか、大切なものを忘れないように。そう願って、この花を。』
私は大事に抱えて家に帰った。ずっと花に顔を埋めていた。
その21日後、彼は亡くなった。事故に巻き込まれた。
その周辺の記憶は、曖昧だ。
最後に見た彼の顔はぼやけて思い出せないのか、それともそれが正しい記憶なのか。

勿忘草、花言葉は「私を忘れないで」「真実の愛」

ああ、私は永遠に彼を忘れられないだろう。
今抱き合っている彼に申し訳なくて一筋の涙を流す。
そして、勿忘草に背を向け、彼と住んでいる家に…帰った。


ーーおしまいーー

11/7/2025, 1:03:25 PM

『灯火を囲んで』

私たちの街には一年に一度灯火を囲って亡くなった自分の大切な人に想いを届けるという風習がある。
幼い頃は意味が分からず、ただただ火を眺めていた。
でも今年は違った。24歳、まだ若くして私は生涯添い遂げると決めた人を亡くした。
いまだに覚えてる。クラクションのうるさい、耳を刺す音。
目を瞑っていたら何もかもが終わっていた。
彼はもう避けられないとわかった瞬間から、私の頭も、体全体を抱きしめて、ああ。
もう、無理だ。
その時玄関のチャイムが鳴る。
「莉央さん。お迎えですよ。」
「…はい。」
お祭りの前には毎年ランダムで女性が選ばれてキツネのお面をつけてお迎えに来てくれる。そしたらお祭りに向かわないといけない。
1人、空が視界を覆いながら歩く。
「優くん、去年まで2人で歩いてたのに」
そう言いぼーっと歩く。
横を見ても彼はいない。
もう灯火はついていた。皆が手を繋いで囲っている。
私もご近所さんに誘われその輪に入る。でも隣に、隣にあの人がいないのが悔しくて、「気分が悪いです」と言って輪からすぐに抜けた。
たまたまあったベンチに座る。少し、目を瞑る。
「優くん、会いたいよ…」
そう言って頭を抱える。
「会えるよ」
「え?」
そう言って隣を見ると優くんがいた。
多分幻覚なんだろうけど、でも。
「優くん、なんで。もう。会いたかったの。なんで」
そう言って涙が溢れそうになる。
「あの灯火に、願ってくれたから。」
「あ。優くん。会いたかったの。ごめんなさい、あの時に、もっと早く気づけたら、庇えたらよかったのに…ごめんね」
「いや俺が勝手に庇ったし。それに好きな人には生きてて欲しかったから」
「私も優くんに…生きて欲しかったのに…」
周りの人がこっちを変な目で見てきたが、私のことをわかってる人は「かわいそうね」と呟く。
でも正直そんなのどうでもいい。
優くんと、ずっと会いたかった。
「優くん…私もう無理だよ…」
「そんなこと言わないでよ。そんな悲しい顔させたくて庇ったんじゃないのに…笑」
そう言われてそうだよねと思った。
「ごめん、わがまま聞いてほしい。」
「急だね笑できることなら」
「プロポーズしてほしいの、あの灯火の前で」
「…去年のこと思い出すね」
「うん笑再現してみて?」
「はいはい。行きますよ、莉亜。」
そう言われ灯火の前へ横並びで行く。
「莉亜、愛してる。結婚してくれ」
なんの前触れもなく彼が言う。
「喜んで、一生離さないでください笑」
周りの目が刺さる。
でもそんなの気にしない。今はこの幻覚でもなんでもいい。私の1番望んでいたものをただ、堪能するだけ。
また来年も会えるのかなと彼と笑いながら思う。
灯火を囲って、また彼と会えたら。そう願うのだった。

終わり

11/1/2025, 6:46:29 AM

光と影


「由奈くん。おはよう」

真っ黒な境界線に向かって言う。
「あ!こら!また1人で!」

そう言い母が私をその真っ黒い壁から話すように手を引く。
私たちの世界は影と光で分かれている。
私が幼い頃はそうじゃなかった。
でもある日突然、この世界は変わってしまった。
仲の良かった幼馴染の由奈くん、あっちにいっちゃった。

「やめて、由奈くんに挨拶してお話しする!」
「バカなこと言わないで。早く戻るよ」
「やだ!由奈くんと」
「もう世界が違うの。由奈くんのことは残念だったけどもう…忘れるしかないのよ」

大人みんなが私を悲しい目で見る。
近所のおばさんも、先生も。
みんな簡単に切り替えられる方がばかなのに!

「でもね、また会えるかもしれないよ?
 もしかしたら由奈くんと話せるかもしれな」
「奈乃、由奈くんとはもう会えないの。
 毎日毎日ここにきてもお話はできない。
 絵本で読んだじゃない、お空にいったの。」

「え、違うよ。影の世界にいっちゃったの」
「…………。」

母は「辛いよね」と私を抱きしめた。

「あ、由奈くん」
「え?」

その時母の後ろでにっこりと微笑む由奈くんが「奈乃ちゃん、げんきげんき」といった。

私はまだ何にもわかんないけどなんだか悲しくなってげんきげんきって言われたのにできなかった。

私がいつか光と影がちゃんとわかるようになったらまた会いに行きたいなって思った。