ぽんまんじゅう

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〈星になる〉
〈遠い鐘の音〉



 目の前の棺桶に自分自身が横たわっていた。真っ白な服を着て美しい花に囲まれて眠っている老いた顔は青白く、彼は自分が亡くなったことを知った。ということは自我を持って今ここに立っているこの存在は幽霊だろうか。そんなことをぼんやりと考えていると鐘の音が聞こえてきた。
 彼が生まれ育ったこの街には小さな一つの教会がある。かなり古くところどころ崩れてはいるもののこの教会は美しく、まさに神に祈りを捧げるのに相応しい場所だ。そして階段を登ったところには大きな鐘がある。決して明るい音色ではないが、その重々しい音を聞くと自然と粛然とした気持ちになり、心が浄化されたように感じる。
 最初の鐘の音が鳴り終わったとき、彼は自分の身体がフワフワと浮き上がっていくように感じた。彼はいつの間にか教会を離れ、星々が輝く宝石のような空に向かって登って行った。鐘の音が遠ざかるにつれて彼は自分の身体が熱くなっていくのを感じた。
 「人は亡くなったら星になる。良い人ほど明るい星になるのよ。教会の鐘は魂を空へと送ってくれるものなの。」
ふと昔母が言っていた言葉を思い出した。母は数十年前に亡くなった。母は良い人だったからきっと明るい星になっているのだろう。父や祖父母もそうに違いない。だが彼は家族たちと同じぐらい輝ける自信はなかった。
 遂に彼の身体が光出した。彼はもう星だった。ずっと自分は大したことが無い人間だと思っていた。しかしその光は真夏の太陽のように明るかった。
 「お疲れ様。よく頑張ったね。」
懐かしい声が次々聞こえてくる。彼は家族たちと共に光り輝きながら夜空へと昇っていった。遠くからはそれを見送るように鐘の音が鳴っていた。

12/15/2025, 9:07:49 AM