たろ

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遠い日のぬくもり


これは夢だろうか。
あれは幼い頃の私だろうか。
蹲って、地面に何かを書き付けている。
『ねぇ、どうして独り頑張ってるの?』
無邪気な顔が首を傾げている。
『誰も頑張ってる確証がないのに、どうして独りだけ頑張らなきゃいけないの?』
変なの、と無邪気な顔した幼子は、地面に向き直った。
「頑張って、乗り越えたら、自信がつくと思うの。何も無駄にしたくないし、経験した事は全て糧になるから。」
幼子は、こちらを見向きもせず、『ふうん』と気のない返事をして、地面に何かを書き付けている。
『―――なきゃ良いけど。』
風が2人の間を駆け抜けていって、聴き取れなかった。


『頑張るって言ったのアンタだよね。さっさと頑張ってやっちゃいなよ。すぐ片付くんでしょ?何で頑張れないの?早く、手が遅いんだから。こんな事も出来ないの?ポンコツ。』
誰のものかも解らない声が聴こえてきて、身体が動かなくて、叫んだ。
「うるさい!黙って!」
気が付いて時計を見たら、丑三つ時。
叫んで飛び起きても、真夜中の静寂に吸い込まれて掻き消える。


12/24/2025, 1:06:31 PM