白い息を吐き出しながら、先ほど買った缶コーヒーを握りしめる。
買った時は熱かったほどの缶コーヒーはプルタブを開ける前にすっかり冷め、つめたい風のせいで缶まで冷えている。
せっかく彼のために買ったのに。
今日も、彼は時間通りに現れない。
視線の先のイルミネーションにはもう明かりが灯り始め、カラフルに世界を幻想的に映し出しているのに。
先ほどまで待ち合わせをしていた人達にはみんな相手が現れ、一緒にイルミネーションを見に行ってるのに。私の彼だけまだ来ない。
つん、と鼻の奥が痛むのは寒さのせいか、寂しさのせいか。
ぽつんと取り残された気がして心細くなる。
もう帰ってしまおうか。一瞬だけそんな思いが頭によぎったとき、彼が現れた。
悪びれもせず「待たせて悪かったな」と彼が手を繋いでくる。すっかり冷めてしまった缶コーヒーのせいで凍えた指先に、彼の体温が移る。
……ああ、温かい。
このぬくもりが欲しくて、私はいつも待ってしまうのだ。時間にルーズなこの彼を。
***
物陰に隠れながら、彼女を見つめる。
寒そうに身体を震わせ、指先を擦り合わせたり、吐息を指先に吹きかけたりしている。
先ほどまで周りいた人達には皆待ち合わせ相手が現れ、彼女はイルミネーションの光を見つめながらぽつんと佇んでいる。
そろそろいいだろうか。
ホカホカと温もりをくれるカイロを握り締めながら、おれは彼女の元へいく。
「待たせて悪かったな」
ギリギリまで温めておいた手をポケットから出し、彼女の凍えた指先に触れる。温もりを分け与えるように指を絡めて繋ぐと、彼女がホッと息を吐きながら幸せそうに微笑む。
……ああ、可愛い。
早く行って抱きしめたい衝動を押し殺しながら待った甲斐があった。
その蕩けた表情が見たくて、おれはいつも待たせてしまうのだ。時間に正確なこの彼女を。
12/9/2025, 3:08:49 PM