〈祈りの果て〉
そのシスターは誰よりも信心深かった。毎日毎日朝も夜も神の像の前で手を合わせた。そうすれば神は人類を見てくれると思っていた。皆の願いが届き、それが叶えられると信じて疑わなかった。
だが、どんなに祈っても状況は変わらない。戦争で多くの人が命を落とした。飢餓は幼子の命までも無慈悲に奪った。彼女が食事を抜いてまで祈った時でさえ、救いたかった尊い命は消え続けた。
戦禍を恐れ、他のシスター達は皆教会を去った。ついに彼女も祈りを止めた。こんなに努力しても祈りが届かないのならば、きっと彼女が信じる神は居ないのだろうから。
次第に彼女はおかしくなっていった。希望は消え、もう何も信じられなくなった。
ふと、素晴らしい考えが頭に浮かんだ。神がいないのならば私が神になれば良いじゃないか。私が神の代わりに願いを叶えれば良いじゃないか。
彼女が新しく作った宗派には良い人々は集まらなかった。祈りに来たのは神を信じない者達、つまり神に逆らう悪しきことを考える者達だけだった。
「あの人に不幸が訪れますように!」
「その願いは必ず届くでしょう。我らの神はいつも見ていますから。」
ある男は願った。彼女はその人の幸せを色々な手で壊した。信者の願いは必ず叶えると誓ったのだから。その男は喜び、彼女に感謝した。
「あいつが消えますように!」
ある女は願った。女の目は正気には見えず、悪しき欲望にぎらぎらと光っていた。
「その願いは必ず届くでしょう。我らの神はいつも見ていますから。」
彼女は女の代わりにその人を消した。女は敵の突然の死に喜び、彼女に感謝した。これまで人々の命のためにどんなに祈っても聞けなかった感謝の言葉。その言葉に彼女は快感を覚えた。
祈りの果てにたどり着いたのは、願いを叶える神との出会いでは無く、悪しき願いのみを叶える悪魔の誕生だった。
11/13/2025, 11:20:19 PM