中学生3

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“痛い”

冷たいの次に抱いた感想はただそれだけだった。


そして沸々とあのディーラーに怒りの感情が湧いてでた。
いや、あれはディーラーなんて大層な肩書きで呼ぶ者じゃない。ただの詐欺師だ、あんなもん。

白い息に悴む指先。たったひとり、山道で車をニュートラルにして手動で何トンもある車を押し進める。

なんでこんなことをしているのかというと、あの詐欺師に「しっかり不凍液は入れてあるんで〜」と言われたことを、を信じたからだ。
不凍液がないからエンジンの冷却水が凍ってやがった。
そんでオーバーヒート起こして走行不可。

おまけに、最近スタッドレスのタイヤに変えたので全くもって前に進みにくい。進まないではなく、進みにくい。

全くもって進まないのであれば自分でも車を捨てようと割り切れるのだが、今回の場合、押せば少しは前に進むので捨てる勇気すら持てないのである。

タイヤの性能だけは一丁前なんだなと皮肉を被りながら、いつまでこうしていられるだろうかとも考える。

こんなに寒い山道の中をこの時間帯に一体誰が通るのか、知れたもんじゃないし、実際ハザードランプなんかつけなくていい位人通りも車通りも少ない。

第一、ここが圏外じゃなくばすぐにJAFを呼べたのに。
というか圏外が原因で携帯が繋がらないのかすら分かっていない。

降り続ける雪が原因で電波が蔑ろになっているんだとしたら、苦労して電話が繋がる場所まで車を押し続けなくてもいいはずであった。

車をおいて歩いて山麓や電波の繋がる場所に行くにしても現在地が山奥すぎてまたここに帰って来れる自信がない。
そもそも、貴重品は置いていけないため荷物を背負っての夜の下山は体力的にも限界に近い。

だから車の中で暖房で暖まったり風を避けて休憩しながら車を少しずつ押して、もっと夜が深まる頃になってもまだ電波が繋がらないのであればそこで車中泊をしようと、考えついたのであった。

それがもっとも車を愛する自分らしい見解であった。
しかしながら、やはり自分にもあの詐欺師にも、その共謀者(最初に話をした小林とかいうやつ)にも執拗にイラつく。

自分でも確認しておけば不凍液の補充ができていないと意義を申せていたのにこんな経験をしてからではもう遅い。

思ったのだが、今この瞬間、冬眠していないクマなんかが飛びついてきたらきたらどうするのか。俺はせいぜい車の中に入ってロックをし、ヤツが空腹でないことを望むことしかできない。

しかし、冬眠していないクマの腹が空いていない訳がないのでやはり俺は喰われてしまう。くちゃくちゃと腹を破られ、腸を麺のように吸われ、自分が咀嚼される音を聞きながら静かに絶命する。
それならば、火事で焼死の方がまだマシであった。

しかも、クマは栄養が少ないところは食べないという習性がある。どうせ死ぬなら家族にショッキングな自分の遺体など絶対に見せたくない。 

ガサッっと右の方から音がした。

「わぁ!!!」

俺は脊髄反射で声を上げて辺りを見渡した。

何もないと知ると、俺は自分の手を息で暖めて、車のドアを開け、パーキングに切り替えた。

「休憩だ休憩。」

俺は気持ちを切り替えようと声に出してみる。
が、全くもって今の状況についての不安が消え失せるわけでなかった。むしろ、その自分の声が予想以上に疲れていることに気づいた。





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飽きた

「凍える指先」

12/9/2025, 1:18:08 PM