―誰よりも―
「誰よりも」
その言葉を、
私は軽く使えない。
誰よりも好き。
誰よりも大事。
誰よりも特別。
そんなふうに言える人たちは、
きっと、
自分の中の重さを、まだ知らない。
私は、
誰よりもあなたを見ていた。
教室の端で笑うときも、
窓の外をぼんやり見ているときも、
話しかけられて、
少しだけ遅れて返事をするときも。
誰よりも、
あなたの小さな癖を知っている。
でも。
それはきっと、
あなたにとって、
何の意味もない。
あなたは、
誰にでも優しい。
誰にでも、
同じ距離で笑う。
だから私は、
ただその中に含まれているだけ。
特別でも、
例外でもなく。
それでも私は、
思ってしまう。
――誰よりも。
口に出した瞬間、
壊れる気がするから、
絶対に言わない。
言わなければ、
まだ、
可能性は死なない。
言わなければ、
まだ、
勘違いのままでいられる。
今日も私は、
あなたの隣で、
普通に笑う。
誰よりも、
あなたを知っているふりをして。
誰よりも、
近い場所にいるふりをして。
誰よりも、
何でもない顔をして。
本当は。
誰よりも、
届かない場所にいるのに。
題名:【深海】
2/17/2026, 1:47:48 AM