あお

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 食卓に置かれているのは温かいご飯ではなく、シワのない千円札が二枚。毎日必ず置いてあった。
 父と母は二人きりで外食をするのが好きだった。二人だけの世界をいつまでも大切にしていて、そこにボクが入る隙などない。
 両親にどんなに嫌気がさしても、ボクには家を飛び出す理由がなかった。ボクがいない間に両親が帰ったらと思うと、その場を離れたくなかった。
 ボクの孤独に気づくことなく、両親は寿命を終えた。時を同じくして、親友が進学を理由に地元を離れると言った。
 幼馴染みが親友の引っ越し先をしつこく聞いてきたから、教える代わりに幼馴染みと一夜を共にした。
 親友を売ったバチが当たったのだろう。生まれてきた娘は、ボクではなく親友に懐いている。
 幼馴染みは母親としての責任を放棄して、好き勝手に遊び歩いている。だが、離婚という選択肢はない。幼馴染みが、いや、妻が……帰ってくるかもしれないから。
 ボクはいつまで家族を待ち続ければいいのだろうか。
 ボクを待っていてくれる人はどこにいるのだろうか。
 孤独が支配する頭で考えた結果、この年で家出を決行した。親友と娘には、ちゃんと置き手紙を残す。
『君たちはとても仲良しだね。ボクは蚊帳の外で少し寂しい。だから実家に帰らせていただきます』
 スマホを片手に漢字を調べながら、紙の上にミミズのような文字を走らせた。それだけで虚しさが込み上げてくる。
 親友と娘がクリスマスケーキを買いに出た少し後、ボクも家を出た。
 食卓に紙切れを残し家を後にする。ボクの両親がやったことと同じ。だけど、気持ちは全然違うのだろう。
 寒さで水溜まりが凍るように、ボクの心も凍りついている。凍てつく鏡に両親を映して、娘に同じ孤独を味あわせている。
 両親から悪い子育てを学んだ。自分のしていることが間違いだとわかる。だけど、正解がわからない。どうしたらいいんだ。
 誰か、ボクの凍てつく鏡に正しい子育てを映してくれないか。

12/27/2025, 10:59:23 PM