—同情はいらない—
いじめはつらい。
そんなことはみんな知っているはずなのに、いじめはなくならない。
なぜだろう。
「いてて……」
殴られて、蹴られて、ズキズキと痛む体をさすった。
体育館裏から、一人で虚しくとぼとぼ歩く。
部活が終わった今の時間、学校内は静かだ。
いつもこうならいいのに、と私は思う。
「ねぇ阿部さん、いじめられてるでしょ」
廊下を歩いていると、突然背後から声をかけられた。
学級委員長だった。
黒縁のメガネ越しに、こちらを真っ直ぐみている。
「そんなわけないじゃん」と口にしようとしたが、服も汚れているし、ところどころ傷口もみえる。
「だったらなに?」と私はいった。
「俺は、いじめは見逃せない」
彼は悲壮な表情をこちらに向ける。
「同情? そういうのが一番腹立つから」
私は、委員長を無視して真っ直ぐ歩いた。
すると、彼は私の右手首を掴んだ。
「同情……、違うかもしれないけど、そうかもしれない」
「は?」
必死に振り解こうとしたが、彼の力は強かった。
「昔、いじめられてる友人がいたんだ。いや、何もできなかった俺は、友人とは言えないかもしれない」
彼は、手を離した。
「俺は、もう、ただみてるだけなのは嫌なんだ。君の話を聞かせてくれないか」
彼の存在が少し大きく見えた。
私は、彼の目を見つめる。
「私は……」
そこまで口にして、思いとどまった。
「私から話すことは何もない」
そう言って、また歩き始めた。
「今まで気づかなくてごめん! 必ず俺がなんとかするから!」
後ろから、そう叫ぶ声が聞こえた。
本当は関わらないでほしい。他の誰かを巻き込みたくはなかった。
でも、最後にそう言えなかったのは、彼を信じたくなってしまったからかもしれない。
お題:同情
2/21/2026, 12:13:00 AM