初心者太郎

Open App
2/24/2026, 1:10:45 AM

—Loveの使い方—

今日の英語の授業で『Love』という単語を習った。

「じゃあ、『Love』という単語を使って、隣の人と会話をしてみましょう」

先生がそう言うとクラスがざわめきだした。
思春期の僕たちにとって、少し刺激が強い。

「あー、I love you!」

僕が隣の女子にそう告げると、彼女は顔を少し赤くした。

「Sorry……」

振られた。

「I don’t love you」

さらには追い討ちまで。
彼女がそれを本心で言っているのか、僕にはわからなかった。

タイマーがピピピと鳴った。

「先生ー! 先生は『Love』って単語、日常で使うんですかー?」

クラスのお調子者が訊いた。
教壇に立つ、若い女の先生をからかいたくなったんだろう。

「私は日本人の男性と結婚しましたから、『Love』は滅多に使いませんね。でも、愛は毎日伝え合っていますよ。それが円満な夫婦関係を続ける秘訣ですからね」

女教師は平然と言う。

「皆さんが外国人の方と付き合うことになった時は、ぜひ『Love』を使って愛を伝えてあげてください。まぁ、中学生のあなたたちには、まだ早いでしょうけど」

逆に仕返しをくらった。

先生は何事もなかったかのように、次に進んでいく。
クラスはシーンと静まり返った。

今日の授業は、なんだか疲れてしまった。
『Love』を使うって、思ったよりも体力を使う単語だな、と僕は思った。

お題:Love you

2/23/2026, 3:01:23 AM

—光の仮面—

高校最後の文化祭を翌日に控えた今日。

「陽菜ちゃん、ごめん! 昨日の放課後、装飾一人でやってもらっちゃって」
「全然いいよ。私は部活に入ってないし、みんな大会近いもんね」

俺は近くの女子を横目に見ていた。

近藤陽菜は、太陽のような人だ。
前向きで明るくて、誰に対しても優しい。

「なぁ、あの噂聞いたか?」

突然、友人の中島が話しかけてきた。

「なんの?」
「近藤さん、フォークダンスの相手がいるらしいぞ」
「へぇ」
「なんだよ。興味なさそうだな」

明日の夕方に開催される、三年生のみで行うフォークダンス。
一緒に踊った相手とは、生涯を共に過ごすことができるという言い伝えがあるらしい。

「色んな人が相手に立候補したけど、先約があるからって断られたらしいぜ」
「ふうん」
「お前、近藤さんと中学一緒なんだろ? 何か聞いてないのか?」
「聞いてない」

そう言うと、中島はつまらなさそうな顔を見せた。

そして放課後。
今日は準備できる最後の日ということで、みんな張り切っていた。

「陽菜ちゃん、昨日やってくれたから、今日は私たちがやるよ」
「私もやるよ。一人でも多い方が、早く終わるからね」
「ありがとう」

俺は、小道具の作成に取り掛かった。

「明日の本番、絶対に成功させよう!」

準備が終わり、学級委員長が言った。
クラスのほとんどがいるこの教室は、大いに盛り上がった。
そして、ぞろぞろと解散した。

帰宅のために、俺は電車に乗り込んだ。

「はぁ、今日も疲れた」

隣に立った近藤が言った。

「お疲れ」
「昨日の放課後、ありがとうね。トオルが手伝ってくれなかったら、きっと終わってなかったわ」

俺は、彼女のことをよく知っている。

「あいつら、話してばっかで全然進まないし。いてもいなくても変わらない」

彼女は、居場所を失いたくないのだ。
だから彼女は太陽のような人を演じている。

「まぁ、終わって良かったな」
「本当よ。——明日のフォークダンス、楽しみにしてるね」

そう言って、彼女は笑顔を見せた。

「あぁ、また明日」

電車のドアを潜り、彼女と別れた。
もう日は暮れ、外はすっかり暗くなっていた。

お題:太陽のような

2/22/2026, 6:07:39 AM

—リスタート—

俺はたった今、無職になった。
十年間勤めた会社が、倒産したのだ。

「ごめん」

その夜、俺は妻と娘に頭を下げた。
まだ三歳の娘がいるというのに、無職になるなんて情けない話だ。

「ぱぱ、むしょく……?」
「パパのお仕事がなくなっちゃったのよ」
「しごとがない……」

妻は平然と言う。

「でも大丈夫よ。仕事はどこかにきっとあるし、パパがこれまで頑張ってくれたおかげで貯金もあるから。——むしろ、少し休みがとれて良かったじゃない」

なんて笑いながら言った。
そんな妻の心の強さに、俺は支えられる。

「ありがとう」

もう一度、俺は頭を下げた。
見捨てられなくて良かったと、心から思う。
彼女の優しさに、思わず涙が溢れてきた。

「ぱぱ、しごとあるよ!」

ふいに娘が叫んだ。

「なあに。どんなお仕事があるの?」と妻が隣の娘に訊く。

「あしたから、パパはメイとあそぶの!」

二人でふっと笑ってしまった。

「確かにそうね。子育ても立派なお仕事だもんね」
「わかった。明日は遊びに行こう」
「じゃあお弁当作って、ピクニックでもしよっか」
「ぴくにっく、したい……!」

暗くなると思っていた部屋の雰囲気は、いつの間にか明るいものになっていた。

無職になってしまった初日。
俺のスタートは、悪くない滑り出しだった。

お題:0からの

2/21/2026, 12:13:00 AM

—同情はいらない—

いじめはつらい。
そんなことはみんな知っているはずなのに、いじめはなくならない。
なぜだろう。

「いてて……」

殴られて、蹴られて、ズキズキと痛む体をさすった。
体育館裏から、一人で虚しくとぼとぼ歩く。

部活が終わった今の時間、学校内は静かだ。
いつもこうならいいのに、と私は思う。

「ねぇ阿部さん、いじめられてるでしょ」

廊下を歩いていると、突然背後から声をかけられた。
学級委員長だった。
黒縁のメガネ越しに、こちらを真っ直ぐみている。

「そんなわけないじゃん」と口にしようとしたが、服も汚れているし、ところどころ傷口もみえる。

「だったらなに?」と私はいった。
「俺は、いじめは見逃せない」

彼は悲壮な表情をこちらに向ける。

「同情? そういうのが一番腹立つから」

私は、委員長を無視して真っ直ぐ歩いた。
すると、彼は私の右手首を掴んだ。

「同情……、違うかもしれないけど、そうかもしれない」
「は?」

必死に振り解こうとしたが、彼の力は強かった。

「昔、いじめられてる友人がいたんだ。いや、何もできなかった俺は、友人とは言えないかもしれない」

彼は、手を離した。

「俺は、もう、ただみてるだけなのは嫌なんだ。君の話を聞かせてくれないか」

彼の存在が少し大きく見えた。
私は、彼の目を見つめる。

「私は……」

そこまで口にして、思いとどまった。

「私から話すことは何もない」

そう言って、また歩き始めた。

「今まで気づかなくてごめん! 必ず俺がなんとかするから!」

後ろから、そう叫ぶ声が聞こえた。
本当は関わらないでほしい。他の誰かを巻き込みたくはなかった。

でも、最後にそう言えなかったのは、彼を信じたくなってしまったからかもしれない。

お題:同情

2/20/2026, 6:49:10 AM

—半分のしおり—

池田紬は、カフェの窓際で本を読んでいた。

「ごめん、お待たせ!」

すると、木村絵馬が少し遅れてやってきた。
人身事故の影響で、電車が遅延していたらしい。
紬は、本から顔を上げた。

「大丈夫。遅延は仕方ないよ」

紬は笑ってみせた。
けれど、絵馬はばつが悪そうな表情をする。

「本当にツムギは優しいのね」
「それは、よく言われるかも。……そんなことはいいから、早く話そうよ」
「うん」

そんなジョークをかましながら、しおりを本に挟んだ。

「そのしおり珍しいね」絵馬が言った。
「あぁ、これね……」

枯葉の右半分をラッピングしたしおり。

「昔、友達と一緒に作ったの」
「へぇ、なんかいいね」

その友人とは、小学校の同級生だった。
けれど、その子は転校してしまった。

「とりあえず、何か頼もうよ」

二人は、メニュー表をみた。
コーヒー二つと、フルーツケーキ、シフォンケーキを注文した。

「最近、転職したんだけどさ。やっと地獄の職場を抜け出せたかと思ったら、さらに厳しいところに来ちゃって!」
「最悪じゃん」

二人は高校の同級生だが、七年経った今でもたまに会い、こうやって駄弁るのだ。

「ほんっとに、甘いもん食べないとやってけないよ!」
「わかる。うちのとこもさ——」

たくさん愚痴を言い合っているうちに、気づけば二時間経っていた。

「そろそろお開きにするか」
「そうだね。私、先払ってくるよ」
「ありがとう」

紬は席を立った。
伝票を持ち、レジまで向かうと、先にお会計している男性の財布から何かが落ちた。

思わず目を見開いた。
それは、枯葉の左半分をラッピングしたしおりだった。

「あの」

男性は振り向く。
その顔には、古い面影があった。

「これ、落としましたよ」

紬は、ほとんど反射的に、しおりの裏に自分の名刺を重ねていた。

「ありがとうございます」

昔とは違い、低くてよく響く声だった。
男性はそれを受け取ると店を去っていった。

心臓が、小学生の時に戻ったように、速く鼓動していた。

お題:枯葉

Next