かたいなか

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年末も近づいてきた、最近最近の都内某所です。
某そこそこ深めの森の中の、本物の稲荷狐が住まう稲荷神社は、年末年始の準備が進みます。

本物の稲荷狐が組み立てた破魔矢、
本物の稲荷狐がお祓いしたお守り、
本物の稲荷狐が清めた御札や水琴鈴。
丁寧に箱に詰めて、大晦日に備えます。

ところで今年は宿坊の、回廊をライトアップして、
美しい光の回廊にするのが吉であると、
ここの稲荷狐の家族がお仕えしている、ウカノミタマの大神様からのお告げ。

そうと決まれば美しく、稲荷神社に相応しく、
宿坊の回廊を飾りましょう。
某稲荷神社に住まう稲荷狐はさっそく、大神様からのお告げの人選に従いまして、
人間を2人ほど神隠し、もとい、稲荷狐の名のもとに借りてきたのでした。

「あの。こちらも年末の電飾の、電気設備のメンテナンス作業がですね。まだ終わってなくて」
ひとりは「ここ」ではないどこか、別の世界で、難民シェルター内のライト装飾を担当している、
カモシカというビジネスネームの男性です。

「カモシカさんだけで、十分でしょう?
照明など、私は専門外も良いところです」
もうひとりはカモシカの別部署、法務部でパトロールや警察みたいな仕事をしている、
ツバメというビジネスネームの男性です。

どちらも言い分はある模様。
でも稲荷狐の一家のおばあちゃん、人間の都合なんて、ちっとも気にしません。
「言い訳はいらないよ。さっそく取り掛かりな」
稲荷狐のおばあちゃんが言いました。
「美しく、稲荷神社らしく、なにより今年の最後に相応しい、光の回廊の案を作るんだよ」

じゃ、私はノラのやつとお茶に行ってくるから。
私が帰ってくるまでに企画書上げとくんだよ。
おばあちゃん狐は尻尾を上げて、ウキウキ振って、
ツバメとカモシカが勤める職場に、とてとて。
行ってしまったのでした。

困ったのはもちろん、ツバメとカモシカです。

「光の回廊?」
おばあちゃんが置いていった、神社の宿坊の回廊の図面を見ながら、カモシカが頭をカックリ。
「ひかりの、かいろう……らしいですね?」
宿坊の図面を一緒に見ながら、ツバメもツバメで同様に、頭をカックリ。

ただ単純に、LEDライトのテープを引っ張って、廊下という廊下をライトアップして、
はい、光の回廊です、
という案を一応、保険にひとつ。
「要するに、こうだよな?」
「それで住むなら我々はキツツキ査問官に拉致られちゃいませんよね……」
『キツツキ査問官』とは誰だって?
それはほら、お題と関係ないので放っとくのです。

「稲荷神社らしい電飾?」
「アイデアあります?」
「こっちが聞きたい」

なんだろう、なんだろな。
稲荷神社の稲荷狐に、目をつけられたのが運命。
諦めましょう、そうしましょう、ひとまず稲荷狐のコンコン依頼するとおりを為しましょう。
ツバメとカモシカは2人して、うんうん悩んで議論して、小さくイメージなどラフ画して、
「光の回廊」の元凶が帰ってくる5分前くらいまで、ずっとうんうん悩んでおったとさ。

12/23/2025, 6:51:07 AM