117.『星になる』『明日への光』『君が見た夢』
ドーナツは希望である。
殺伐としたニュースが駆け巡る現代社会。
先行きの見えない暗い未来に顔を曇らせる人々も、ドーナツを前にすれば誰もが笑顔になる。
まさに明日への光、それがドーナツだ。
だが、ドーナツとて万能ではない。
その殺人的なまでのカロリーは、我々の未来に暗い影を落とす。
その甘美な誘惑の先には、『肥満』という辛い現実が待っている。
ノーリスクで全てを解決できる、都合のいい話はどこにもないのだ……
こうなってしまっては、この世界には夢も希望もない。
人々は生きる気力を失い、明日を知れぬ日を過ごしていく。
もはや明るい未来などどこにもない。
この事実は、人々を絶望させた……
だがこの事実に、抗う者がいた。
「0カロリーのドーナツ。
それさえあれば、全てを解決できる!」
友人のDである。
生粋のドーナツ好きであるDは、世界平和のためドーナツを配布する活動をしていた。
効果があったのだが、それは最初だけ。
始めはドーナツを見て目を輝かせていた人々も、次第に顔を曇らせる。
彼らはドーナツの食べ過ぎでメタボになってしまったのである。
それならばと、Dが考えたのが0カロリードーナツ。
「それさえあれば、世界を平和に出来る!」
彼はそう豪語し、研究に着手した。
だが、Dは志半ばにして舞台から退場した。
試作品のドーナツを食べ過ぎて、ドクターストップがかかったのである。
無念に顔を曇らせるDを見て、俺は決意した。
『君が見た夢、俺が絶対に叶えて見せる』と……
だがそれができれば苦労はしない。
俺は、Dの遺した膨大な研究資料を読み漁り、一つの結論を下した。
『0カロリードーナツは、現代の科学技術では実現不可能である』という事を……
だが諦めることは出来ない。
0カロリードーナツは、世界を救う救世主なのだ。
なんとしても作り上げなければいけない。
しかし正攻法では0カロリーは達成できない。
そこで俺は、新しいアイディアを得るべく、ドーナツをひたすら観察することにした。
三日三晩、一睡もせずドーナツを観察し、幻覚すら見始めた頃、そして真理へと到達した。
「なんだ、こんなにも簡単なことだったのか……」
ドーナツは環状の形をしている。
つまり、その形状そのものが「0」を表しており、実際に0カロリーという事である。
よって食べても太るわけがない。
Dやそのほかの人々がメタボになったのは、ただの思い込みである。
この理論を発表すれば世界に平和が訪れ、ドーナツ史と世界史に名を残すであろう……
待ってろよ、D。
君が待ち望んだ世界を実現して見せる。
ドーナツの星に、俺はなる!
だがその前に実証実験だ。
自分の体で試し、実際に効果が出てこそ理論は確固たるものになる。
俺は理論の正しさを証明するため、3食をドーナツにした。
他の食物など一切口に入れず、ただドーナツを食べるだけの生活。
一週間も経てば、さすがに飽き始めたが、それでも食べた。
すべては友人のDのために……
そして――
――メタボになった。
12/23/2025, 9:31:03 AM