「──オルロック?」
声が聞こえた。天に広がる春の日のお日さまみたいな、柔らかくて暖かな声が。それが彼女のものだと理解するまでに、そう時間は掛からなかった。
「どうしたの、こんな所で」
フフ、と細やかな笑い声を奏でながら、リリィがおれの隣に座る。雑草と野花を敷き詰めただけの絨毯が、ふわりと彼女を優しく包み込んでくれた事に、何故か少しだけほっとした。
「……空を、見ていた」
「空?」
「うん、空」
教国の中庭に寝転がったまま、おれは一人呟く。両眼に映っているのは、雲一つ無い青空。この世界の、汚いものも、悲しいものも、間違ったものも、何も知らないみたいな、穏やかな青空。
「──とても、綺麗だと思った」
おれの前に広がったそれは、どこからか聞こえる子供たちの笑い声に良く似た、とても眩い世界だと思った。綺麗で、清らかで、優しくて、もしも天国というものがあるのだとしたら、きっとあの景色を指すんじゃないか、と思うようなそれを、じっと眺めていると。
「……わたしも、見て良いかしら?」
「え」
その質問に答えるよりも先に、リリィは身体を倒して、やがて気が付けばすぐ隣に寝転がっていた。
「本当に、綺麗ね」
少しはクッションがあるとは言っても、硬い地面の上で痛くは無いのかな、とか。せっかく洗濯したばかりの服を着ているのに、汚れてしまわないのかな、とか。そんなおれの心配を他所に、彼女はころんと身体の向きを変えた。
多分それは、彼女にとってはただの他愛もない雑談なんだろう。
行儀が良いとは言えないと分かっていても、今日はいつまでもこうしていたいと思った。
2/21/2026, 10:41:09 AM