朝、ベッドから起き上がる。
ピピピピピと鳴るスマホを手に取りながら、
アラームをかけた時のことを思い出そうとするも、
昨日のことが酷く昔のことのように感じられる。
体を伸ばし、今日が始まったことを改めて実感する。
朝食を摂り、
歯を磨き、
スーツを着る。
玄関を開けて右に曲がり、
薄汚れた階段をカンカンと降りた先には、
大家のおばちゃんがほうきとちりとりを持って佇んでいる。
「あらぁ、谷口さん、今日はいつもより早いのねぇ。」
「ええ、まあ。いってきます。」
「はい、いってらっしゃい。」
もう随分とやり慣れた会話だった。
何千回も聞いた声だった。
恨めしいほど返した言葉だった。
道路に目をやり、再び歩き始める。
もう、何回繰り返したのかも覚えていない。
何十回、何百回、何千回、
同じ今日を辿ったのだろう。
何度も試した。
会社の人を殴った日も、
事故の起きる交差点に先回りした日も、
線路に侵入して電車を止めた日もある。
それでも朝になると、日付は変わらないままだった。
人も、事故も、電車も、何事もなかったかのように1日が始まった。
5億年ボタンとか、タイムリープとか、
当事者でもないような奴等がその恐怖を語ることに勝手に苛立つ。
そして毎度、そんなことを考える自分に呆れる。
挫折も憂鬱も飽きてしまった。
世界中の時が残酷に進むのなら、
自分が居続けるこの1日は天国になりうるのだろうか。
雑多な感情を振り払い、駅へと向かう。
今日こそ、明日にたどり着いてやる。
今日こそ、今日にさよならを。
2/19/2026, 3:56:10 AM