世界に呪いがかけられた。
生まれたその瞬間から、体の周りを少しずつ岩が覆い隠していく病気。体が完全に覆い隠されれば、意識はあるものの、動くことは出来なくなる。そして他の者達の手によって、「岩」として破壊される。
原因を探ろうとした者も、その呪いから逃れようと薬の研究を始めた者ももちろんいた。しかしその者たちは決まって岩が体を覆い隠すスピードが速くなり、実験に手をつけられないまま岩になってしまうのだった。
いつ岩に体が覆い隠されるか、分からない。そんな世界で生きる者達がいた。
「月が綺麗だ。」
僕は、岩が足を覆い隠し、1人で歩けなくなった友人を車椅子で外まで連れていっていた。
「ああ、…でももう少ししたら、この月も俺は見えなくなるな。」
「そんなこと言うなよ、唯人。僕は今見えるもの聞こえるものを楽しみたいんだ。」
眉を潜めた僕に、唯人は笑顔を向けた。
「確かにそうだな。お前は、顔がもう半分覆われてるもんなー…。でも、足よりましだぜ、多分。1人で歩いていけるなんて最高じゃんよ。俺なんて、一日中ベッドでダラダラして寝て起きたら足が岩になってたんだ。こんなことならあの日は散歩でもすりゃ良かった、だろ?」
そういって唯人がにやっと笑うから、僕もつられて笑ってしまった。
「まあ、確かにそうかもな。」
「今日は何する?」
「そうだな~…。」
僕たちはいつ岩になるか分からない毎日を思い出作りをして過ごしていた。
翌日。
「おはよ唯人。」
「おはよー。」
歩けない唯人に歩み寄る。その時。
パキ…。
足が固まる。岩は少しずつ上に上ってくる。
パキパキ…パキ…
「おいおい…嘘だろ…。」
「…俺もだ…。」
パキ…パキ…。唯人の体も俺と同じようにいつも以上のスピードで岩に覆い隠され始めていた。
「覚悟してたはずなのにな…。なんで今日なんだろうな…。」
唯人は静かに涙を流しながら笑う。
唯人…唯人…!走り出そうとする。しかしもう足は動かなかった。
「唯人…!」
首まで迫ってくる。
唯人も同様、すでに首まで岩が覆い隠していた。
「楽しかった…。同時に岩になれるなら良いじゃねぇか…。寂しい思いをしないですむな…。」
眉を下げて唯人はにっこり笑う。
「唯…っ」
もう岩があご辺りまできてしまった。すぐに口も固まってしまう…。僕が一番唯人に伝えたいこと…。
「今日も…月がきれ…」
その言葉を最後に、僕と唯人の口は固まってしまった。最後の言葉を聞いて、唯人からは大粒の涙が流れた。その涙も、岩になっていく…。僕らの全てが、岩に覆い尽くされていく…。
あと一歩…。あと一歩だけ歩けたら…あなたに触れられるのに…。
8/26/2025, 9:55:27 AM