「まるで君は太陽のように美しく輝いて見えるよ!」
いきなり彼がそう言い出した。
「何それ、止めてよ。意味、分かっていってんの?」
「君がすごく好きだよ、という意味だろう?」
「まぁ、大体合ってるけど…でもあんたがそれ言うのはだめでしょ」
「え…。友達が誰でも喜ぶって言ってたのに…。」
「あんたが言うとね、だめね。」
「なんで?」
「だって、あんたが太陽じゃん。月に太陽がそういうこと言うなよ。」
「…確かに。」
「ちなみに教えてくれた友達って?」
「地球。」
0からのスタートってよく言うじゃん?
心機一転!今日から新しいスタートだ!ってやつ。
俺もそうだった。
前の会社で失敗それから、クビになっても、なんとか生きてきた。
そんで、マッチングアプリで良さげな人を見つけて、新しい働き口もなんとか見つけてやったさ。
だから、俺、宣言してやったんだわ。
0からのスタート!やってやる!って。
あのー、渋谷の、えーっと、そうそうスクランブル交差点の真ん中でさ。
ほんと後悔だよ。
全部無駄になっちまった。
だって思わないじゃんか。
まさか0からのスタートって宣言して、母親のお腹の中に戻されるなんて。
あの日、君が僕に手渡してくれた鍵。
そのときの君の手の暖かさが、手入れの行き届いた綺麗な手が、控えめのネイルが、忘れられない。
そのときの君のはにかんだ笑顔も、少し赤く染まった頬も、忘れない。
その鍵は僕にとって宝物だった。
いつだって、その鍵で開けた先には君がいた。だからこの鍵は大切だった。
でも今は、開けた先に君はいない。この鍵はもはや鉄の塊にすぎない。君がいないと………。
ある村に少年と少女がいました。
2人はとても仲が良く、いつも一緒でした。そんな2人を村の人たちは温かく見守っていました。
しかし、2人は夕方になると必ず家に帰ります。少女はもう少し長く少年と一緒に過ごしたいのですが、少年の答えはいつだって「ごめんね。」でした。
ある日、いつもは日が暮れ始めると家に帰るのですが、少女はなぜ少年が夜は一緒に過ごさせてくれないのか疑問に思い、家に帰るふりをして、少年の後ろにこっそり着いて行きました。
少女はてっきり少年は家に帰ると思っていましたが、少年が歩きだしたのは家とは反対方向でした。そのまま少年は森へ入っていき、森の奥深くに歩いていきました。森の中で唯一木々がほとんど無く、少し開けたところに少年は座り込みました。少年は月を見ていました。予想と全然違う結果になった少女は隠れていた木から出て、少年に近づきました。
「月を見ていたのね。私も一緒に見たいわ。」
少女は後ろをこっそり着いてきてしまった罪悪感から少年の顔を見れないまま少年の横に座り、月を見ながらそう言いました。
「…なんで居るんだ…。帰るよう言ったのに…。」
少年の反応は思っていたものと全然違うものでした。少女は慌てて、
「黙って着いてきてしまってごめんなさい。でもあなたと月、見たかっ…」
そこまで言って、少女の顔が固まりました。
少年の顔がみるみる内に狼へと変わっていく…。
「…ちゃんと言わなくてごめん…。」
月の下、狼が吠える……。
「…ん?」
夏の暑い日差しの中、ふと後ろを向く。
1人で散歩中なので、もちろん後ろには誰もいない。川の流れとセミの鳴き声がただ聞こえてくるだけだ。
何か違和感を感じる…。そう思いながらも、正面に顔を向け、歩きだそうとする。
そのとき、
「みーちゃん!」
その声にひかれ、振り返るとそこには、幼い女の子。
少し背伸びをしたような大人用の白い帽子を深くかぶり、黄色のワンピースを着ている。
「……さっちゃん?」
「せいかぁい!」
どうして私自身からさっちゃんなんて名前が出たのか、この子が何者なのか分からない。混乱したままの私をよそにさっちゃんはにっこりして、私のもとへ駆け寄ってくる。
「あのねあのね!今日ね!さっちゃんね、みーちゃんと花火したいの!ママが花火買ってくれてんだ!」
「みーちゃん…、私とってこと?」
「?他に誰がいるの?」
「そう…そうね。」
「ふふー!もう準備はしてあるんだ!今日の夜6時ここに集合ね!」
自慢げにそう話し、さっちゃんは私とは反対方向へ走っていってしまった。
「さっちゃん」。そんな子、いただろうか。どうしても、思い出せない。でもどうして私はあの子の名前が分かったのだろうか。
夜6時。一旦家に帰って、ライターだけ取ってきたあと、もう一度あの場所へ向かった。ここは小さな公園があり、透き通った川が流れている。田舎ならではの美しさにいつもと変わらない退屈を感じながらも、ライターをカチカチしながら待っていると、さっちゃんはやってきた。
「お待たせ!あ!ライターだ!」
「ん…。」
さっちゃんは一層にっこりした。
「じゃあやるぞーー!」
ぱちぱちぱちぱち
日が沈みかけている、真っ赤な空の下、私とさっちゃんは花火をしていた。
赤、青、橙…。
たくさんの色が、私とさっちゃんの周りを彩っていく。どこか懐かしい夏のひととき…。
「お待ちかね!線香花火だよ!」
「ふふふ」
私はさっちゃんと打ち解け、ほんの数分で笑いあうほどの仲になった。
「みーちゃん勝負だよ!どっちの線香花火が長く持つか!」
「いいよ!負ける気がしないな!」
「ぜったいさっちゃんが勝つもん!」
ライターでカチッと同時に火をつける。
ぱちぱちぱち…
控えめな音を立てながら、少しずつ先が朱く膨らんでゆく。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
何か聞こえてくる…。何か流れ込んでくる…。
「みーちゃん!」
「みーちゃん!」
「助けて…!みーちゃん…!」
そうだ…。よくさっちゃんは私の後ろについて歩いていた…。
あの夏私は、川に溺れたさっちゃんを助けることが出来なかった…。
私の夏の忘れ物…。
「…みーちゃん、おもいだした?」
「さっちゃん…、思い出したよ。ごめん…ごめんね…」
思わず涙が出てくる。
「いいんだよ~。みーちゃん、あの夏に記憶をおとしていったみたいだったもん。持ってきてあげたんだ。みーちゃんにさっちゃんのこと、忘れて欲しくなかったもん…。」
「…ありがと…!!もうぜったい忘れないから。」
「んふふー、ぜったいだよ」
2人の線香花火が落ちる。
夕日も地平線に消えていき、きづいたらさっちゃんも居なくなっていた。