俺は、母親が大嫌いだった。幼い頃から、俺は母親に怒られ続けてきた。ほんの些細なことでも。幼稚園児の頃、親の似顔絵を描く授業で俺は母の似顔絵を描いたが、あとで母に見せたときに
「何これ?怒ってるみたい。もっと笑った顔描いてよ。」と文句を言われた。
俺がカーペットにジュースを溢して、シミを作ってしまったときにも、母の怒声は止まらなかった。
小学生のときに家庭内での調理実習の課題をやることになった。そのときに、母は俺に細かくグチグチ言われた。「切るのが遅い!早く入れて!」「さっさと炊いちゃいなさい!」「ほら、味噌入れて!」こんなのばっかりだ。もう嫌になってしまって、飛び出してしまいたかったけど、未成年である俺には1人で生きていく知識も経済力もなかったので、仕方なく家にいるしかなかった。
そして、大学を卒業して就職した半年後に俺はようやく親元を離れてアパートを借りて生活を始めた。
親のいない空間は、最高に気持ちよかった。乱れやすさはあるものの、朝からのお菓子を爆食い、好きなものを好きなだけ食べてよく、嫌いなものは食べずにいられる解放感、お金を自分の自由に使える快感…。嬉しさでしかなかった。
そんな中でも、ストレスはあった。本来なら起きなきゃいけない時間には10分寝坊するし、風呂に入りたいのに、疲れて入るのを忘れるなら風呂キャン界隈で、女性社員には「臭い」と罵られる。おまけに、仕事から帰ったら疲れて何もやりたくなくて、結局何もやらずに寝る。着替えもせずに。
そこから10年が経ち、俺は彼女ができた。まだ付き合い始めて7ヶ月だ。その彼女は、俺のアパートの部屋を見たときに、こう言った。
「晴也さんってさ、アホだよね。」
突然の言葉に、ゾッとした。怒りとか、悲しみとかの前に驚きが出て何も言えなかった。
「なんでこんなしけっているポテチを、大事そうにしまっているの?不味くない?しかも、運転免許証が流し台のところに置いてある。というより、放り投げてあるって言った方が正しそう。食糧は、カップ麺か揚げ物の惣菜、スナック菓子ばかり。野菜などの栄養のあるものを、日々の食生活で取り入れていないでしょう。恐らく、あなたの日々の栄養バランスは最悪でしょうね。まぁ、あとは一言に言えばだらしないかなぁ。私が来るから慌てて片付けたんだろうけど、埃っぽいし臭いよ、この部屋。」
「なんで、そんな小姑みたいなこと言うの?」
俺は後から段々腹が立ってきた。
「あなたの地雷を一旦踏んでみたかったから。なんとなくあなたが何を言えば怒らないのか、知りたかったから。でも、これで1つ知れてよかった。」
あぁ、どうしてこんな女性と出会ってしまったのだろう。この女性に、ボロクソ言われるぐらいならもっと日頃から母の言うことを聞いておくべきだったと、なぜか訳のわからない後悔をしてしまった。この女性と出会ってしまったことが、俺が母へ反抗した罰なのだろう。10年前の自分を、叱ってやりたい。
2/16/2026, 8:45:15 AM