灰色

Open App
2/16/2026, 8:45:15 AM

俺は、母親が大嫌いだった。幼い頃から、俺は母親に怒られ続けてきた。ほんの些細なことでも。幼稚園児の頃、親の似顔絵を描く授業で俺は母の似顔絵を描いたが、あとで母に見せたときに
「何これ?怒ってるみたい。もっと笑った顔描いてよ。」と文句を言われた。
俺がカーペットにジュースを溢して、シミを作ってしまったときにも、母の怒声は止まらなかった。 
小学生のときに家庭内での調理実習の課題をやることになった。そのときに、母は俺に細かくグチグチ言われた。「切るのが遅い!早く入れて!」「さっさと炊いちゃいなさい!」「ほら、味噌入れて!」こんなのばっかりだ。もう嫌になってしまって、飛び出してしまいたかったけど、未成年である俺には1人で生きていく知識も経済力もなかったので、仕方なく家にいるしかなかった。
そして、大学を卒業して就職した半年後に俺はようやく親元を離れてアパートを借りて生活を始めた。
親のいない空間は、最高に気持ちよかった。乱れやすさはあるものの、朝からのお菓子を爆食い、好きなものを好きなだけ食べてよく、嫌いなものは食べずにいられる解放感、お金を自分の自由に使える快感…。嬉しさでしかなかった。
そんな中でも、ストレスはあった。本来なら起きなきゃいけない時間には10分寝坊するし、風呂に入りたいのに、疲れて入るのを忘れるなら風呂キャン界隈で、女性社員には「臭い」と罵られる。おまけに、仕事から帰ったら疲れて何もやりたくなくて、結局何もやらずに寝る。着替えもせずに。
そこから10年が経ち、俺は彼女ができた。まだ付き合い始めて7ヶ月だ。その彼女は、俺のアパートの部屋を見たときに、こう言った。
「晴也さんってさ、アホだよね。」
突然の言葉に、ゾッとした。怒りとか、悲しみとかの前に驚きが出て何も言えなかった。
「なんでこんなしけっているポテチを、大事そうにしまっているの?不味くない?しかも、運転免許証が流し台のところに置いてある。というより、放り投げてあるって言った方が正しそう。食糧は、カップ麺か揚げ物の惣菜、スナック菓子ばかり。野菜などの栄養のあるものを、日々の食生活で取り入れていないでしょう。恐らく、あなたの日々の栄養バランスは最悪でしょうね。まぁ、あとは一言に言えばだらしないかなぁ。私が来るから慌てて片付けたんだろうけど、埃っぽいし臭いよ、この部屋。」
「なんで、そんな小姑みたいなこと言うの?」
俺は後から段々腹が立ってきた。
「あなたの地雷を一旦踏んでみたかったから。なんとなくあなたが何を言えば怒らないのか、知りたかったから。でも、これで1つ知れてよかった。」
あぁ、どうしてこんな女性と出会ってしまったのだろう。この女性に、ボロクソ言われるぐらいならもっと日頃から母の言うことを聞いておくべきだったと、なぜか訳のわからない後悔をしてしまった。この女性と出会ってしまったことが、俺が母へ反抗した罰なのだろう。10年前の自分を、叱ってやりたい。

2/14/2026, 6:13:09 AM

「ねぇ、これなら丈夫そうでいいんじゃない?」
私は、夫と車を買おうとしていた。
「そうだねぇ。でも、高くないか?色も、ピンク色はやめて欲しいかなぁ。」
「いいじゃん!可愛くて。」
「勘弁してくれよ。この車は何年も使うんだよ。40歳過ぎてもピンク色は、流石にきついよ。560万って、ローンを返済できるか不安だよ。」
夫は、私が一目見て気に入ったピンク色の自動車を見て、苦笑いした。
「大丈夫だって。私もガンガン稼ぐから。」
私はピンクの車に強い希望を抱いたが、どうやら夫はドン引きしながら、後退りをする。夫は、私のゴリ押しには弱いのだ。
「こっちの、黒い車ならどうかな?これならエコロジーだし、値段も390万と安いよ。広さも、快適だし。」
珍しく、夫が私に別の案を勧めてきた。
しかし、最終的には私が気に入ったピンク色の車を買うことで決定した。
「早速買ったんだし、どこかドライブに行く?」
新車が家に届くと、私はどこかに行きたくてたまらなかった。
「じゃあ、公園にでも行くか。」
「山とか行こう。」
「山は、あまり好きではないんだけどなぁ。」
「えぇ?行こうよ。きっと楽しいよ。」
こうして、私たちは山へドライブに行くことになった。
山へ入ったとき、私は高揚感に満ちていた。
「マジでめっちゃ綺麗!」
「本当に、綺麗だね。ピンク色だと、元気になりそうだ。英理奈のお陰だよ。ありがとう。」
私は夫に褒められたことが嬉しくて、夫に何かをしてあげたかった。
「あっ!猿がいる!猿だよ。」
私は夫の肩をボンボン叩いた。すると…。
「英理奈、あまり運転の邪魔をもらえるかな。」
夫が、真剣そうな顔で私に言った。しかし、私はその話を聞かずに車窓からの景色に釘付けになっていた。
「あっ!見て見て!鹿がいるよ!鹿が…!」
「英理奈、危ないっ!」
「えっ?」
私が夫の声を聞いたときには既に遅く、私たちの正面にはガードレールがあった。
「ちょっ!嘘でしょ!」
どうにもしようがなく、私たちはガードレールを突き破って山から転落してしまった。
「んん…。ん?あれ?」
次に私が目を覚ましたときには、私はゴツゴツした岩の上にいた。
慌てて辺りを見渡すと、50mぐらい先で深紅の血を流しながら倒れている夫がいた。
「龍助!」
私は、急いて夫に駆け寄った。夫の目は閉じていて、頭からは血が溢れていた。私が動かさない限り、ピクリとも動きはしない。胸には木の枝が刺さっていた。
「119番しなきゃ。スマホスマホ…。」
私は119番をしようとするものの、スマホがない。持っていたのは、変な石ころだけだった。スマホも、財布もみんな私のところから消えていた。夫もそうだった。
最終的に、このドライブが夫の最期となった。皮肉なことに、好きではない山に好きではない車で、しかも自分の誕生日に死んでしまったのだ。他でもない、私のせいで。私が、あのときに夫の話を聞いていればこういうことにはならなかったのだ。私は、この手で夫を殺めてしまったのだ。今も、ピンクの車を見るたびにそのトラウマが蘇る。そして、私は夫が他界して以来私は子どもを産み自分の意見をできるだけ言わずに、他人の意見に賛成ばかりしている。私の罪は、決して消えるものではないのだ。私が何をしようと、私が夫を殺めたという事実は変わらない。
それを噛み締めていくのが、私の反省なのだ。私は、夫に墓参りをする度にこう言っている。「待っててね。」と。

2/13/2026, 9:44:47 AM

久々に親の顔を見に、里帰りをした。新幹線に乗って、静かな住宅街を2kmぐらい歩くと「刑部」という表札の家柄見えた。焦茶色の趣深い色の木の板が、年輪と共に渋く輝いている。
「ただいま!」と普段は出さないような少し大きい声を出すと、「はいはい、おかえり。」と、髪がまた一段と白くなってまた身長が縮んだような母が、玄関で迎えてくれる。
「上がるよ。」私はそんな母の出迎えなどお構いなしに、玄関の床を踏み締めて和室へ上がった。
「おぅ、おかえり。」和室では、父が爪を切っていた。
「はい、これ土産。焼酎。好きだろ、2人とも。」
「ありがとう。これがまた美味しいんだよねぇ。」
母は、焼酎の瓶をすぐに受け取って棚へしまった。まるで、リスがどんぐりを埋めるかのようだった。
「おい、辰博。湿布を取ってくれるか?そこの押し入れの中にあるんだが…。」
「あ、ついでに体重計も出してくれない?昨日から探しているんだけど、見つからないの。」
早速、いいように使う。昔からそうだ。親離れする前と、何も変わらない。
俺は無言で押し入れの戸を開けた。親離れしたときと変わらず、埃っぽかった。我が家は、昔から押し入れはそこまで丁寧に掃除をしない。片付けすら真面目にやらないため、押し入れに入れたものは、大体見つからない。俺はその押し入れのことを「刑部ブラックホール」と呼んでいた。
布団、枕カバー、ドライバー、体温計、豆電球。物がごちゃごちゃしていて、湿布や体重計の姿が見えない。探しているうちに、俺は高そうなカステラの箱を見つけた。中身が気になり開けてみたところそれは、俺宛のメッセージが入った俺の寝顔写真だった。
「何々?あっ!それ見つけちゃったんだぁ。」
母が、人の恋愛を揶揄う女子のように言ってくる。
「どれどれ?辰博くんは。この前は公演に来てくれてありがとう。あなたのために、必死に頑張りました。特に、薬売りの演技はあなたのことを思いながら演技してました。私は、今あなたがいるからこそ日常生活を送れます。私の感覚としては、あなたが私を束縛しているかのよう。辰博さん、今後も私をあなたの愛で束縛してくれませんか?一生あなたから逃げられないように、ギュウギュウにきつく縛り付けてください。これが、私にとってこの世で最も美しい束縛です。
あなたの愛の虜 角田さりか。だってぇ!」
父が、読めば読むほどその気色悪い内容に興奮している。聞くだけで、吐き気がしそうだった。そして、俺はその角田さりかが誰なのかを思い出したせいで、目まいがした。角田さりかは、俺が高校時代に俺に付き纏っていた、いわば変人だ。彼女が言うには、俺に昔からの気があったらしい。告白した瞬間に振ったのだが。
「それねぇ、角田さんが私たちに渡して欲しいって一昨日届けられたの。」
ゾクゾクが止まらなかった。しかも、写真の日付は1週間前だ。角田とは高校の卒業式依頼全く会ってもいないし、連絡すら絶ったのに。もはや、ストーカーか?
「そういえば、千佳もそれを見て何か書いていたなぁ。」
父の、その一言で俺は更に怖くなった。千佳は、俺の妹だ。
「なんて書いてあったのかわかる?」
「あぁ、私がこっそりコピーとっておいた。なかなか面白い内容だったけど。」
母がそのコピーの紙を出すと、俺はパッと奪い取りそれを父は読み上げた。
「角田さりかさんへ。ご連絡ありがとうございます。先日の公演、素晴らしかったです。私には、多くの集団の中で輝きを放つあなたしか見ることができませんでした。あなたを見られない時間が、私にとってどれほど苦痛だったのか。それは、量り知れるものではございません。私は、あなたについて思わなかったときは1秒もありません。常に、あなたへの愛で私の心は溢れていました。あなたを私の愛でこれからも、束縛致します。けれど、縛り方は少し粗いようで繊細に致します。縛るのは、私の腕で充分でしょう。あなたが、私の腕に囲まれて、胸の中で頭をうずめて唇と唇が重なる。そして、お互いの身が合わさるときにはもうあなたは縛られるどころか、私の愛で溶けそうになっていることでしょう。いや、溶かしてみせますよ。その代わり、あなたも私を溶かしてください。2人の愛の炎は、いつまでも消えません。焼き尽くして、溶かし続けて、ボロボロになるまで。」
「最高!」
母の反応に突っ込む余裕もなく、俺は気絶してしまいそうだった。
「そこまで伝えようとしてたんだなぁ。角田さんも、千佳も。」
「まずは、俺の気持ちを伝えさせてくれ。」
俺は、顔を青くして死んだように床へ倒れ込んだ。

2/12/2026, 7:15:23 AM

所沢駅は、私の好きな思い出の一つだ。なぜなら、所沢駅には私が離したくても離れない思い出が詰まっているから。その思い出というのが、まず焼き肉屋だ。私は、勉強を頑張ったら所沢にある焼き肉屋に家族全員で行く習慣ある。テストでいい点をとったり、受験で合格したり。幼い頃から怠け癖がついていた私にとって、「焼き肉」という言葉を使った利益誘導は効果的だった。その焼き肉屋は、所沢駅の近くにある。車で行こうとすると、渋滞に巻き込まれるのでいつも運転係になる父は、焼き肉屋へは電車で行きたがる。その焼き肉屋では、必ず所沢駅を経由しなければならない。だから、所沢駅の風景は何度も目に焼きつかれていた。
焼き肉で腹が膨れたら、所沢駅の中のお店で親に自分の買って欲しいものを強請る。学級の中で流行っている小説やアニメの漫画本、お洒落なスカーフなど様々なものを買ってもらっていた。特別に買って欲しいものばかりではなく、私が一目見て気に入ったものもたくさんある。そこで、親に負担をかけてしまうかもしれないという罪悪感もあるが、やはり買ってもらえて嬉しいという気持ちが勝る。様々なお店に囲まれながら、そこで一日中過ごしたこともあった。
他に思い出と言ったら、友達と絶好した場所でもあったということだろう。私には、恩田君という親友がいた。私が小学6年生のときに、恩田君が私立の中学校へ受験することを知った私は、恩田君に腹が立ってしまった。ずっと一緒にいるという想定で彼と一緒に過ごしていた私にとって、そのお告げは裏切られたような、悲しいものだった。そこから、話がお互いの罵り合いとなり私と彼は絶交してしまった。そこから11年経った今も連絡を絶っている。
もう1つ、私の思い出を語るのであればそれはシャープペンシルだろう。私は、小学校の卒園祝いで叔父から可愛らしいひよこのシャープペンシルをもらった。私はそれで有頂天になった。早速何かを描きたいと思ったときに、私は所沢駅の風景を描こうと決めて急いで所沢駅へ駆けて行った。多くの人々が芋を洗うように、移動している。その中で私は床に座り込み絵を描き始めた。無事に絵を描き終わり、いくつか買い物をして帰ろうとしたときにそのシャープペンシルは、私のところから消えていた。最初は、どこかにあるだろうと思っていたが、どこにあるのかどんどんわけわからくなってきて、私は地べたに手をついて床をキョロキョロ見渡した。恐らく、どこかに落としたのだろう。しかし、30分探してみても見つからなかった。こんなにも探しているのに、見つからないのだろう。通行人が疎ましかった。私のことを知らずに、のうのうと生きていられるなんて、なんて憎い!と、私は思った。単なる、逆恨みでしかないのだけど。
結局、私はそのシャープペンシルを諦めなければまだならなかった。今もまだ、あの駅のどこかにあると何故か信じている私がいる。
その所沢駅が私を逞しくしているのは、事実なのではないかと思う。
このように、私は所沢駅が大好き玉。今となっては、らマニアになつまているかもしれない。