電車にのり、空いている席に座る。
隣は、40代くらいの会社員だ。うとうとしている彼は、全身から疲労感が漂っている。降りる駅までは30分ほどかかるので、ボクも目を瞑って少し眠ることにする。
すぐに眠りについたボクは、ぼんやりと夢の中で漂う。隣の男性が見ている苦痛な風景が、ボクにもみえる。彼と同じ感情を味わいながら、これらすべてが浄化されますように、と願う。
目を開けると、隣にいた男性は立ち上がり、電車を降りていく。幾分、足どりが軽やかなように見受けられて、ボクはホッとする。
ボクは幼い頃から、近くにあるものたちの苦しみを同じように味わってしまうことに気づいた。はじめの頃は、ただ苦しさを一緒に感じるだけで何にもできなかった。ボク自身も苦痛で、どうしてよいか分からなかったのだ。
ある日、少女の苦痛な場面を共に味わったとき、ボクは彼女の苦しみがすべて浄化しますように、と心から願った。
すると、不思議なことにみえている風景の粒が、一瞬細かくキラキラと輝いた。その少女にまとわりついた重さがふわっと取り除かれたのが、ボクには分かった。
それ以来、いろんな場所でボクはいろんなものたちの苦しみをひっそりと浄化している。これが、ボクができる、ささやかなことだ。
2/21/2026, 6:26:13 AM