その本棚は、亡くなった彼女のものだ。
綺麗に並べられた本は、ボクには難しくて分からないものばかりだが、1冊だけ惹かれるタイトルがあった。それは、「Love you」と、金色の文字で印刷されていた。
手に取ってみると、あたたかい柔らかな風が吹いたような気がした。表紙には何も書かれていなかった。そっと本を開くと、懐かしい文字が現れた。それは、彼女の日記だったのだ。
○月○日(☆)
今日は、Yと待ち合わせ。
お気に入りのお店で、日が暮れるまでお喋りをする。
*月*日(&)
今日も、Yと待ち合わせ。
また、お気に入りのお店で、ひたすらお喋りをする。
三行ほどの日記をが、半年分綴ってあった。その半年は、ボクが彼女と出会い、親しくした期間だった。
ボクたち2人はお気に入りのカフェで、お喋りをして過ごすことがほとんどだったから、彼女の日記もそのことばかり書いてあった。
ボクたちの時間は、三行ほどが半年分だった。短いのか長いのかは分からないが、ボクにとっては忘れることのできない、深くて美しい時間だ。
ありがとう、とボクはその本を抱きしめつつ、呟いた。
「太陽のような人になりたい?」
「いいえ、あんなにパワフルなのは、いや。夜空にひっそりと佇む、月の方がいいわ。」
太陽のような見た目とはうらはらに、彼女は眩しい笑顔でこう答えた。どうみても、太陽タイプだ。彼女は、いつも明るく元気で、まわりの人を引っぱっていく役割をさらりとこなしているようにみえる。
そんな彼女の内面は、とても物静かなのだということを、ボクは最近知った。
ボクとふたりきりのときは、彼女は殆ど話さない。だいたいボクから話しかけて、彼女が答えることが多い。
太陽のような、彼女。
月になりたい、彼女。
どちらも、彼女、なのだ。
パワフルな面と静けさの中にある面と、うまくバランスをとりながら、彼女は必死に生きているのだろう。
ボクは、そんな彼女をとても愛おしくおもっている。
なんにもないところから、
なにかをつくりだすというのは、
無理だ、と私のちっぽけな頭ではおもう。
しかし、
ホログラムでもなんでも
今目の前に手で触れるものがあって、
愛するものがあって、
美味しいクッキーも食べることができる。
これらを「もと」に辿っていくと、
みんなひとつのものに繋がって、
つまるところ、
あるものたちぜーんぶが、
ひとつ、らしいのだが、
何度もいうが、私のちっぽけな頭では理解しがたい。とりあえず、″ふーん、そうなんだね″というしかできない。(否定はしない。そうぞうできないだけ。)
でも、
よくよく考えたら、
・だらだらしながなんとなく思ったものが、スマホの広告で流れてきたり
・食べたいなあと思ったら、友だちがかってきてくれたり
・具合悪いなあと思っら、実家の親も風邪ひいてたり
・アンパンマンの歌を歌っていたら、空の雲がアンパンマンみたいだったり
…
そんなことがあると、
やっぱりいろんなものって、
繋がってるんだよなあ、と
感じたりもするのだ。
わたしはちっぽけだけど、
そう考えると、
案外、大っきものなのかもしれない。
ま、大っきくてもなんでも
日々生きるための細々としたことを
必死になったり、
のらりくらりとかわしたりしながら、
寿命まで過ごすしかないので。
(それも、皆いっしょだ)
いまからちょっと用事をこなしてこよう。
しかし、
なんだか朝から
くだらないこと考えてしまったけれど、
そもそもおおもとは、なんなんだろう?
0からのわたしたち。
「0」ってなんなんだろう?
電車にのり、空いている席に座る。
隣は、40代くらいの会社員だ。うとうとしている彼は、全身から疲労感が漂っている。降りる駅までは30分ほどかかるので、ボクも目を瞑って少し眠ることにする。
すぐに眠りについたボクは、ぼんやりと夢の中で漂う。隣の男性が見ている苦痛な風景が、ボクにもみえる。彼と同じ感情を味わいながら、これらすべてが浄化されますように、と願う。
目を開けると、隣にいた男性は立ち上がり、電車を降りていく。幾分、足どりが軽やかなように見受けられて、ボクはホッとする。
ボクは幼い頃から、近くにあるものたちの苦しみを同じように味わってしまうことに気づいた。はじめの頃は、ただ苦しさを一緒に感じるだけで何にもできなかった。ボク自身も苦痛で、どうしてよいか分からなかったのだ。
ある日、少女の苦痛な場面を共に味わったとき、ボクは彼女の苦しみがすべて浄化しますように、と心から願った。
すると、不思議なことにみえている風景の粒が、一瞬細かくキラキラと輝いた。その少女にまとわりついた重さがふわっと取り除かれたのが、ボクには分かった。
それ以来、いろんな場所でボクはいろんなものたちの苦しみをひっそりと浄化している。これが、ボクができる、ささやかなことだ。
ベンチに座って ぼんやりしていたら
風が ぴゅるんと 吹いて
おでこに ぺたり と
枯葉が くっついた
びっくりして 手に取ると
その枯葉には
「♡」マークが書いてあった
あたりを
キョロキョロ みてみたけれど
他には 誰も いなかった
とっても 不思議だった けど
ボクは
ちょっぴり 嬉しく なって
ちょっぴり 元気が でた
そろそろ 日が暮れるから
ベンチから 立ち上がると
また ぴゅるんと 風が吹いて
耳元で
「ふふふ♡」 と
鈴が鳴るような
可愛らしい声が 聞こえたようなきがした