雪の静寂:
僕は君になりたい。
帰り道、そればかりを考えていた。
僕には喉から手が出そうなほど欲しいものを全て最初から持っている君。僕が手放したくてたまらないものを何も持っていない君。きれいで、まぶしくて、同じ生き物だなんて思えなくて、思いたくなくて。
足元、地面を真っ白に染めた雪が僕に踏まれて泥まじりになる。何度も車が通ってぐちゃぐちゃになったあの車道の雪は僕だ。通れば汚れて人は嫌な顔をするし、目も当てられない様がよく似ている。
それなら、僕が今まさに足跡をつけているこのまっさらな雪こそ君だろうか。きれいな君をこんな風に踏みにじって汚すことができたら、僕はもっと楽になれるのだろうか。
そんなことを思いながら抉れる白銀を見つめていると、ふと空からまた雪が降りてきた。静かに、優しく、柔らかくおちて、僕に触れたかと思えば溶けて跡形もなく消える。
そうだな。どちらかといえば、君はこっちだろう。
気付けば雪に濡れ泥がついた靴とズボンの裾。
僕は、君になれない。
12/18/2025, 8:47:19 AM