楠征樹

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《バレンタイン》#12 2026/02/15

「これからも、友達でいてね」
 差し出されたのは、なんてことのない、スーパーのお菓子売り場(バレンタインデー特設コーナーではない)に陳列されている300円を少し切るくらいの板チョコだ。苺味の。そう言えば、100円台だったのは、いつの頃だったか。
「もちろん、優里」
 お返しに、と差し出したのは、形が宇宙船をモチーフにしたとかいう、子供が好きそうなチョコだ。苺味の。
「味、被ったね」
「被ったあ」
 二人して、同時に吹き出した。こんなやりとりを、かれこれ20年近く続けている。味が被ったのは、何回目だろうか。
 初めて優里からチョコを貰ったのは、幼稚園の時だ。あの頃は、仲良しの友達同士で交換するもの、という認識だった。
 二人の間で、意味が少し変わったのは、中三の時。優里が差し出してきたのは、包みにメーカー名がでかでかと書かれた板チョコだった。
「これからも、友達で…好きだから」
 ライクとラブの違いを深掘りしたくなるお年頃だったから、その好きが、どの好きかは聞き返さなくても、勘違いすることは無かった。
「うん、もちろん」
 こうして、私達二人は、友達より少し先の関係になった。

 で、ある時、尋ねたのだ。なんで、シンプルな板チョコだったのって。
「それはね、風美から初めて貰ったチョコだったから」
 ちょっと文学少女っぽいところがある、優里らしい返事だった。
 それ以来、お互い唯一無二の関係になってからも、二人の間で行き交うチョコはシンプルなモノで、添えられる言葉もシンプルなモノのままだった。
 でも、私達には、それがお似合いだと思っている。ずっと。

2/15/2026, 9:04:06 AM