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本を読む。
なんとはなしに童話を選んだ。
もう覚えきった話を。
無我夢中に読み返して、もう忘れたものを読んだって
既視感に襲われるようになってしまった。
記憶災害とでも言えるだろう。
天井のスピーカーはなだらかな音楽を歌っている。
このまま眠れてしまいそうなほどに退屈だ。
そしてもう二度と起きることはないくらいに平坦だ。
本を読むことで知識の平原にぽつんと遭難する。
しかし同じ遭難者を見つけても助けを求めることはできない。
どうして本を読む場所では静かにしないといけないんだろう。
ここで喋るのはいけないことだと、言い出しっぺは誰なんだ。
生涯をかけても真に理解し得ないこの知の塊を、
喋らずしてどう深めようというのか。
ああ、手持ち無沙汰だ。
意味もなく己の手をこねくり回す。
依然としてスピーカーはなだらかな音楽を歌っている。
本を読む。
既視感を読む。
平坦の中で遭難する。
遭難して、逃げるためにまた遭難する。
スピーカーは歌う事を気に入ったようだった。
既視感はいつもどうりに俺に挨拶をする。
平原の中で、草を編む。
知を編む。
スピーカーは音の流れに身を任せ踊っている。
隣のソファに既視感がもすんと埋まりこむ。
編んだ草で日を避ける。
既視感は飽き飽きしている。
俺もだ、俺ももう飽きたよ。
しかし俺達の間に会話は起きない。
ここでは喋ってはいけないから。
スピーカーは疲れ果て、それでもなお舞っている。
昨日の草に今日の草を重ねる。
2/18/2026, 4:53:29 AM