誰よりも優しい男
高校に入学して数日、誰彼構わず頼み事を聞いていたら、そんなふうにクラスの誰かが僕の事を言った
そのフレーズがぴったしだったのかクラスのみんなに誰よりも優しい男として扱われるようになった
「今日の掃除当番代わってくれない?」
「宿題映させてくれ!」
「ノート集めて職員室に持ってきてくれるか?」
半ば便利やの様な扱いだと感じる
でも、特に嫌な気分でもなく僕は今日も首を縦に振る
そんなこんなで1年が過ぎた
僕は学校の誰よりも優しい男に昇華し、他学年や先生達にまで僕の事は知られていた
そんなある日
「おっ、いたいた優男」
如何にもなあだ名で部活の顧問の淳先生に話しかけられる
「唐突で悪いんだけどさぁ〜、笹波に至急渡して欲しいもんがあってさ今日、家まで届けてくれないか?ポストに入れといてくれればいいから!な!」
──笹波
部活の後輩で、不登校の女子だ
と言ってもちょくちょく学校には来ているらしい
部活に顔を見せたのは三回くらいだが
「分かりました」
僕は今日も誰よりも優しい男の行動をとる
笹波の家は僕の家とは真反対だ
電車で五つの駅を通過し六つ目で降り、そこから二十分近く歩いて田舎の広々とした場所の少し古臭い一軒家
笹波の家だ
流石に遠いな、何て考えながら僕は家の扉の前で鞄から頼まれていた書類を取り出しポストに入れる
何か家の中でやっているのか物音と喋り声らしきものが漏れているが不登校の人間の家だこじれの一つもあるだろう
頼まれ事は終わったので、家を後にしようとした時だった
大きな物音が後ろから聞こえた
思わず体が反応する、後ろを振り返って扉を見つめる
少しの思考の後、僕は様子を見る事にした
ベルを鳴らすも壊れているのか鳴らない
ダメ元で扉を引く
「開いてる」
そんな声がボソッと漏れる
「笹波ー!」
声を上げるが反応が無い
玄関から続く廊下を歩いてリビングに到着する
夕方だと言うのに電気が付いてなく薄暗い掃除もあまりされているようではくゴミが散乱し、うっすら臭う
机、椅子、キッチン、と見回すが誰もいない
何だか不気味で嫌な気配だ引き返した方が良いのではという思考が頭をよぎるが同時に笹波が流石に心配だとも思う
2階に行くことを決心する
一段一段階段を上がっていく足が重い
電気は当然のごとく付いていなく薄暗い闇が僕の不安を更に煽る
いくつかの部屋があり扉の空いている部屋が一つ
恐る恐る僕は部屋を覗く
「──ッ」
そこには首元にペンらしきものが刺さっている男が血を垂らしながら倒れその前に立ち尽くす血に濡れた笹波の姿があった
笹波が気配を感じたのか振り返る
「あれ?先輩だ……こんばんわ?」
多分、おそらく、嫌っ絶対に殺している、死んでいる!
なのに彼女はおおよそ平然に見えた頭が現実を処理しきれていない
でもこれだけは理解できる今この瞬間どう動くかで僕の人生が大きく変わる
誰よりも優しい男としての行動はどんなものだろう?
2/16/2026, 11:51:06 PM