「おじゃましまぁーす。」
「つっ……めてぇなこの野郎!」
ようやく温まってきたところの小さなポケットに、凍てつく侵入者が現れて、温もりを奪っていった。追い出そうとすると、体をもぎゅもぎゅ押して出口を塞がれてしまった。
「手ぇ入れんな!」
「いいじゃん、入れてくれよ。」
「このポケットは一人用なんだよ、出てけ。」
「すぐあったかくなるからさ。」
「どの口が…」
バスが来るまではまだ時間がある。口も上手く回らないくらいには寒いので、余計な小競り合いを続けられるほどの余裕はなかった。仕方なく共生を目指した途端に、隣の男は自らポケットから退いた。
「入ったり出たり忙しいな、お前。」
「すべての温もりを奪うほど、俺は冷酷じゃあないんでね…。」
「ほんとにどの口が言ってんの?」
その代わり体を寄せてきたので、俺は肩でこづいて押し返してやる。すると悲しそうな顔でこちらを見るので、思わずギョッとした隙に間をガッツリ詰められた。してやられた。
「くっつくなって!」
「なんか今日は冷たいな。」
「いつもだわ。」
ギャーギャー言っていると、こいつは突然ポケットからカイロを取り出した。
「これあげるから、機嫌直してくれよ。」
「機嫌悪くねぇし…てかそれ持ってるなら使えよ!」
「いいから貰えって、お前はバス降りてからも長いだろ?」
変なところで気がきくこいつにいつも呆れるばかりだった。素直に受け取ると、満足げに笑った。手から伝わるカイロの温もりが、どこかいつもと違って感じられる。
「風邪ひくなよ。」
この日もらったカイロは、それとなく捨てられないまま月日が過ぎていった。温もりも何もないこいつに価値はないかもしれないが、俺にとってはそこにまだ微かな温もりが残っている。
12/24/2025, 2:23:18 PM