田舎の学生

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〈もうひとつの人生〉

古本をめくった。
世界で自分だけが息をしているような、静かで途方もなく寂しい夜だった。
コーヒーの香りがした。温かくて、切ない香り。
前の持ち主によってつけられた香りだろうか、少し泣きたくなった。
こんなに香りが染み付くまで読まれて、愛されたのだろう。
前の人は、この本とどんな人生を過ごしただろう、私のように孤独を共に耐えしのいだかもしれない、幸せを感じながら癒しのひと時を過ごしたかもしてない。
古本をめくるのが好きだ。
時にはスイーツみたいな甘い香り、時には少し埃っぽいタバコの匂い。
古本の香りというのは、本と一緒に、もうひとつの物語を見せてくれる。
どんな人生でも、どんな失敗が続く日でも、まだもう少しだけ生きられる気がする。

12/13/2025, 3:01:06 PM