『光の廻廊』
巡りめぐる螺旋。終わりのない小道。
それは、運命を変える希望の灯火。
《光の廻廊》という場所がある。
それは、冒険者の中では有名な話だ。
なんでも、ダンジョンの中で死んでしまった仲間と、一時だけ邂逅できる。と、まことしやかに囁かれている。
……嘘か本当かは知らない。
だけど、そんな噂につられて冒険者になる者が一定数いるのは、確かだ。
「わたくしを、冒険者にして下さいまし!!」
そう、目の前にいる貴族のお嬢さんのように。
くるくるの金糸みたいな髪の毛は、まるで繊細な芸術品のようで、シミやかすり傷ひとつない白い肌は、一級の職人が手掛けた陶器のように美しい。小顔の相貌を彩る二つの紫色のアメジストが、キラキラとこちらを強い光で見つめてくる。
俺はひそかにため息を吐いた。
……これは、ダメだ。絶対に、駄目。
「やだね。諦めな、お嬢さん」
「な、なんでですの!? 冒険者ギルドは何人たりともけ入れるって規約に書いてあるではありませんの!!」
「知らないね、俺は学が無いんでなぁ。どうしても冒険者になりたきゃ、他のギルドを探せよ。しっしっ!!」
敢えてガラを悪くして追い払うように手を振る。
お嬢さんの目に浮かぶ涙に、心が針で刺されたように痛むが、俺は気にしないフリをした。
「兄様から、ここのギルドはとても良い人たちばかりと聞いていたのに……」
「あにさま? あぁ、兄貴か。へぇ、なんて名前なの?」
そういって返された名前に、俺は目を大きく見開くことになった。心臓が大きくドクリと跳ねる音がうるさい。
その名は、忘れもしない。
――俺の相棒の名だ。
『ねぇ、一緒にパーティーを組もうよ!』
『私と君なら、どんなダンジョンだって大丈夫』
『私はね、ある人に逢うために冒険者になったんだ。君は?』
『……妹が居るんだ。あの子の事だけが、心配だなぁ』
アイツの言葉が脳内で駆け巡る。
最期に心配そうに笑うアイツの顔を思いだして、強く唇を噛み締めた。
「? あの、もし? ……聞こえてまして?」
やめろ。口を開くな。その声を聞かせるな、何も言うな。
――だが、もう遅い。
俺は知ってしまったのだ。知らなかった前には戻れない。
「いいぜ。ギルドに入れよ」
「……えっ!? 良いんですの!!」
「あぁ、兄貴探し手伝ってやるよ」
輝く令嬢の顔に反して、俺の心境は酷く暗かった。
……これは贖罪だ。アイツを殺した俺への罰だ。
――光の廻廊で、アイツが待っている気がした。
……続かない
おわり
12/22/2025, 3:37:40 PM