—手紙—
父はオレのことを全く褒めない。
「シンイチのこと、褒めてあげなさいよ」
母は父にいつもそう言うが、褒められたことは一度もない。
クラスで一番の成績表を持って帰った時も、サッカーの全国大会に出場した時も。どれだけ結果を出しても、何も言ってくれなかった。
正直もう慣れていた。中学校に上がった時くらいには、期待していなかった。
そしてついに、その日が訪れることはなくなった。父が亡くなったのだ。社会人になって十年目の時だった。
「何か欲しい物あったら、持って帰っていいからね」母はオレに言った。
父の遺品を整理することになった。
押し入れにしまわれた物も、取り出して順に見ていく。
タンスを開くと、懐かしい物がいっぱい出てきた。
学生時代の成績表や、賞状がある。美術の時間に描いた絵まで保管してあった。ゆっくり目を通していくと、一つ一つに付箋が貼ってある事に気がついた。
父の筆跡だ。コメントが書いてある。
『素晴らしい』とか、『頑張ったな』とか、『すごいな』とか。オレを褒める言葉がいっぱい並んでいた。
それとは別に一枚、手紙が挟んであった。
『自慢の息子だ。将来はきっと大物になるだろう。新一の未来が楽しみだ。』
心の片隅では、ずっと褒めてほしい、とオレは思っていた。
父の手紙を胸に抱え込み、わあわあと涙を流した。
お題:心の片隅で
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100作品!㊗️
12/19/2025, 5:27:21 AM