花とコトリ

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「ゼロからの」

5:42
まだ色のない海。
世界がはじまる前の静けさを、クロの冷たい鼻先がつつく。
「もうすぐだよ」
真っ暗な砂浜に座ると、隣でクロが大きなあくびをした。

6:05
水平線の端が、じわりと滲む。
オレンジでもピンクでもない、名付けようのない光。
昨日までの後悔も、使い古した言葉も、すべて波がさらっていった。
ただ、新しく引き込まれた潮の匂いがあるだけ。

6:15
朝日は、容赦なく今日を連れてくる。
光の粒がクロの黒い毛を金色に縁取った。
なにも持たずに、ここから始めればいい。
真っ白なノートをひらくみたいに、まっさらな心で。

「帰ろうか」
駆け出したクロの足跡を、新しい波がすぐに消していった。

2/21/2026, 5:56:24 PM